第4話 隠しごと

翌朝

普段の土曜ならまだ寝ている時間に、千珠琉は窓の外を見ていた。昴がバイクでバイトに向かうのが見える。

昨夜二人で流星群を見たのはいつも通り楽しかった。しかし、千珠琉は昴が沈黙した一瞬のことが頭から離れなかった。

“ 金貯めたいんだ。それだけ。”

(何のために貯めたいの?)

タイミングを逃して聞けなかったが、そうでなくても聞けなかったし、今も聞けないだろうと思っている。

あの瞬間、本当に流れ星が流れたのかはわからない。千珠琉には昴が急いで話題を変えたのがわかってしまった。付き合いが長いのが少し嫌になる瞬間だ。

バイクの免許を知らないうちに取っていたり、やはり最近の昴には秘密が多い。

17年一緒にいて、昴が大きな隠しごとをしたのは恒の病が発覚したときくらいだ。その時の昴は千珠琉といる時や学校ではあくまでも普通に元気に振る舞っていたが、ふとした時にボーっと何かを考えている瞬間があることに千珠琉は気づいた。

何も知らない千珠琉は無邪気に笑って「最近ボーっとして、なんか変じゃない?何かあった?悩みなら聞くけど?」と聞いてしまった。

昴は苦笑いをして「そのうち言う」とだけ言った。

それからしばらくして、千珠琉は母を通して恒のことを聞いた。

辛い状況の昴に気を遣わせて苦笑いさせてしまった自分がものすごく嫌になった。

その時のことを思い出すと、昴の隠しごとを聞き出すことに臆病になってしまう。

「絶対…大きな事、でしょ。」

窓辺で頬杖ほおづえをついた千珠琉はひとり言《ご》ちて不安を募らせた。


「聞けば良いじゃん。」

月曜、教室で山下やました 由梨ゆりは千珠琉にあっさりと言ってのけた。

どちらかと言うとふんわりした見た目の千珠琉とは雰囲気の違うクールなクラスメイトだ。

「あーもう!由梨は絶対そう言うと思ったよー!そんな簡単じゃないんだよー!」

「なら私に聞くなよ。」

「うわー由梨っぽい!」

そう言って机に突っ伏す千珠琉の情緒不安定気味な反応に由梨は慣れた様子で呆れている。

「こまちと大河内って付き合ってるようなもんでしょ?なんでも聞けば良いと思うけど。」

由梨の言葉に千珠琉はバッと顔を上げてブンブンと首を横に振る。“こまち”というのは“こま●●ずる”を略したあだ名だ。

「それはなんの否定?付き合ってる事?なんでも聞く事?」

「両方!」

由梨の問いに千珠琉ははっきりした声で答えた。

「えーでも一緒に登下校して休みに遊んだりもして、夜中に流れ星も見ちゃうんでしょ?付き合ってるでしょ、それ。」

「…幼馴染だから。兄妹きょうだいみたいなもんだよ。」

「ふーん。」

異性の兄妹ってそんなに一緒に過ごすか?と由梨は思ったが、あえて口には出さなかった。

「昴と私が付き合うことは無い気がする…。」

千珠琉はポツリとこぼした。

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