第3話 沈黙
週末 金曜が土曜に変わる頃、千珠琉と昴は家の近くの坂を登ったところにある
「どっち見れば良いの?」
「んーちょい待て。調べる。」
千珠琉の希望で来ているはずなのに、なぜか当たり前のように昴がスマホを取り出す。昴が調べている間、千珠琉は高台の公園から見える海を見ていた。
「この公園、海も見えて良いよね〜。都会じゃないから夜景的なのはいまいち地味だけど。」
「お、空全体に流れるって。」
「うーん、全方向見るより方角決めてくれた方がラクだよね…。」
千珠琉は少し残念そうに言った。
「自然相手に無理言うなよ。1時間に多くて10個くらいだってさ。ベンチに座って見ようぜ。」
親指でベンチを指差した昴は千珠琉の手を引いてベンチに腰を下ろした。
「はー…っこいしょっ」
「おじさんくさーっ!」
「お前、バイト終わりの昴さんをつかまえて公園に連れてきてること忘れんなよ。オヤジくさい声も漏れちゃいますよ…。ちなみに明日は早番ですよ。」
「あー…ごめん…。」
昴が最近バイトを増やしたことを思い出して千珠琉は申し訳ない気持ちになり、しゅんとしてしまった。
「いや、冗談だって。このくらい全然負担でもなんでもないっス。」
昴が慌てて千珠琉の頭をポンポンと軽く叩いた。千珠琉は安心した顔で昴を見た。
「っス、って。誰!」
あはは、と千珠琉が笑い昴もホッとする。
「ねえ昴、最近バイトいっぱいやってるね。何か欲しいものでもあるの?」
ここ最近、ずっと気になっていたことだ。
「………。」
(え…)
思わぬ沈黙に千珠琉の胸が
「あー、悪い、なんか一瞬意識飛んだ。」
「え、あぁ…うん…。」
よくわからない切り返しをしてしまう。
「金貯めたいんだ。それだけ。」
何事もなかったかのように落ち着いた口調で返ってきたことが、ますます千珠琉の心臓にチク、とトゲを突き刺す。
「何か、欲しいものでも…」
と、千珠琉が言いかけたとき
「あ!流れた!」
「え!?」
「あーほらまた、チズの頭の方!」
「え」「え」「え、どこ、嘘」
千珠琉は慌ててキョロキョロと振り返って空を見上げた。
「チズ、慌てなくて大丈夫だよ。これからピークって書いてあったから、まだまだ流れるよ。」
今度は後ろから頭をまたポンと叩かれた。
昴から見えない千珠琉の顔は赤くなっているし、口元が少しだけ緩むのを必死に堪えたようなおかしな顔になっている。
(昴…)
千珠琉が流れ星に、初詣に、七夕に、誕生日ケーキのキャンドルに願う事はもう何年も一つに決まっている。
(昴とずっと仲良く一緒にいられますように。)
今日も千珠琉は声に出さずに願った。
声に出さない効果なのか、この願いは叶い続けている。
声に出さなくても昴は千珠琉が何を願っているかとっくに気づいている。そんな千珠琉が可愛く、昴にとってももちろん嬉しいが必死に願う千珠琉を見るその表情はどこか曇っているようだった。
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