第31話 エピソード0 完

 狂剣のサンピエールの襲撃。 それ以来、刺客と言えるような人は出てこなかった。


 敵勢力は、彼以上に強力な駒を動かせなかったのだろう。


 そんな、こんなで――――


 アリスたちはアッサリと帰国した。


 それから数日後、王城では予定通りに晩餐会が行われた。


 晩餐会は成功したのだろう。 その流れで大きな社交界が行われた。


「本当に私たちもお呼ばれしてよかったのでしょうか?」


「何言ってるんだよ? お前だってマクレイガー公爵家の人間なんだから」


 そこにはアリスとミゲールも混じっていた。


 二人とも正装――――特にミゲールは珍しくドレスを着ている。


 真っ赤なドレスは、露出もあってか? ずいぶんと多くの人の目を引き付けた。


 桃色のふんわりとしたドレスを来たアリスとの対比が問題になりそうだった。


「おい、アリス! そこにいたのか」と近づいてくる少年はミライだ。


「あっ、ミライ! その服――――」とアリスは、まじまじと彼の服装を見た。


 今の黒い暗殺者風の恰好から程遠い正装姿。


 教皇の息子として呼ばれているからだろう。祭司のような服装だった。


「笑うなよ……?」と少し恥ずかしそうなミライに対して、アリスは


「笑わないよ」と微笑んだ。


「――――ッ! わ、笑ってるじゃねぇか!」


 そんな微笑ましいやり取り。その最中の狙ったかのようなタイミングで――――


「やぁ、アリス。久しぶりだね」と別の少年の声。


 彼の名前はクロ――――正確には、エドワード・オブ・ブラック。


 この国の王子でありながら、アリスの婚約者だった。


「こちらの彼は誰だい? 初めましてだよね」


「……教会のミライです。初めましてエドワード王子」


「クロでいいよ。親しい者と付き合いが長くなりそうな者には、そう呼んでもらっている」


 2人の少年は、何か感じる物があるのだろうか?


 しばらく握手をして、手を離さなかった。 


 その場にいたアリスは


(2人とも、変な顔をして握手を交わしてるけど、笑かそうとしてるのかしら?)


 そう思った。 ミシッ、ミシッと力を入れた手から鳴る異音は聞こえなかったようだ……


「いいねぇ、青春ってやつじゃねぇか。それで、お前はどう思う?」


 ミゲールが声をかけたのは、クロの後方。彼の護衛であるオスカー。


 剣聖オスカーである。


「……さて、私は常に王子の味方ですので」


「つまらねぇ答えだな。……まぁ、いい。それじゃ味方さんにお願いがある」


「なんです?」とオスカーは少し警戒心を強めた。


「そう緊張するなよ。別に、お前と戦いたいって願いじゃねぇよ」


「そうですか。てっきり……そういうタイプだと」 


「私は戦闘狂であって、誰でも構わず噛みつく狂犬じゃねぇよ」


「では、なんですか? あなたの願いとは?」


「最近、聞いてないか? 私のウワサについて?」


「なんでも――――魔法協会と険悪とか」


「よしよし、いい感じにウワサが流れてるじゃないか」

 

 魔法協会。 国が設立した機関の1つ。


 その目的は、魔法使いの管理や魔法の制限。


 つまり――――


「宮廷魔法使いである私の目的である研究と発展とは真逆の組織だ。笑えるだろ? どっちも国が認めたものなのに反発してるんだぜ?」


「公に敵対するつもりですか? 王は許しませんよ」


「いや、むしろ敵のふところに飛び込む」


「?」


「魔法学校。 5年後に奴らの経営母体にアリスを送り込む。ついでに私も教師として赴任してやるさ」


「なんと――――無茶を」とオスカーも絶句する。


「可能とは思えませんが」


「やる。できるさ……だって私だぜ?」


「ふっ」とオスカーは緊張を緩める。


「そう言い切ってしまえるのが貴方の凄い所です。それで? 私は、具体的に何をしてほしいのですか?」


「お前も赴任しろよ。王子も生徒して入学させろ」


「―――――」


「いいのかい? 王子さまの大切な婚約者が敵地に入り込むんだぜ? お前等も遊びに来いよ。一番おもしれぇもんをお前等にも見せてやるぜ?」


「――――貴方って人は……」



   

『魔法令嬢アリスは星空に舞いたい ~病弱だと思い込んでる少女は『世界最強の魔法使い』に弟子入りして~』


 エピソード0 完



 そして――――5年後


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魔法令嬢アリスは星空に舞いたい ~病弱だと思い込んでる少女は『世界最強の魔法使い』に弟子入りして~ チョーカー @0213oh

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