第30話 決着です 狂剣のサンピエールの最後?

 円形闘技場を模した船が爆風で揺れる。


 そんな中、アリスは師への支援が行えず、なす術がない。その理由を口にしたのは――――


「どうだミゲール? 優秀な弟子の防御支援も爆風の中で使えないだろ?」

 

 ミゲールを爆薬で襲う狂剣のサンピエール。彼は続ける。


「お前の弟子は風属性――――この爆風では精密な操作もできまい。強引にも結界を張れば、爆風も封じ込めてお前を蒸し焼く結果になる」


「――――」と自身の弱点を言われたアリス。 もう、彼女ができる事は師の勝利を信じることしかできない。 それに彼女――――ミゲールは、


「おいおい、うちの弟子をいじめるよ。まだ7才だぜ? そういう特殊性癖でもあるのか?」


「安い挑発を言うな。余裕のなさがわかるぞ」


 狂剣のサンピエールは勝利を確信して笑う。


「お前の魔法――――獣属性は、接近戦に本領発揮する。加えて、この海上では従来の地属性も封じられたようなものだろ」


「――――」と無言で睨むミゲール。


「ふん、沈黙は肯定と一緒だぞ。爆風で接近戦もできない。遠距離攻撃? 海底から土を吸い上げてるか?」


「なら、試してみればいいだろ? 私にも、まだ切り札があるかもしれないぞ?」


「無論……そのつもりだ」


 爆弾を投げつけるサンピエール。 爆風でミゲールの姿が消える。


 だが、サンピエールは手を止めない。ここで終わりと言わんばかりに、爆弾を投げ続ける。


 だが、爆風の奥――――


 煙によって視界が乱れる奥底で何かが動くのが見えた。


「食らえ! サンピエール!」


 爆風を背に浴びて、加速したミゲールが飛び出して来た。


 その手には剣が握られていた。迎え撃つサンピエールは――――


「隠し持っていた土を固めて仮初の剣にしたか? だが、この狂剣に剣で挑むとは――――笑止。二つ名は伊達じゃないぞ」


 狂剣のサンピエールは胸に手を入れる。 今まで爆弾を取り出していたソコから、次に取り出したのは短い刃物。


 剣より刀身が短く、形状はナイフに近しい。 しかし、刃は厚い。


 その刃太さから、鋭利な刃物よりも重い鈍器の印象が強い。


 向かって行くミゲールは――――


「オラっ! 研究用に持ち帰った貴重な新大陸の土だぞ! てめぇのために使ってやるぜ! 魔法発展の礎になれや!」


 魔法によって大幅に向上した身体能力に加え、爆風による加速。


 それによって刺突を狙う。


「そんな付け焼き刃が通じるか。この剣は見た目に反して、名のある刀匠の作品。そこらの名剣よりも、遥かに良剣だぞ」


 その言葉通り、ミゲールの突進から繰り出す刺突を――――


 剣で切り落とした。


 崩れ落ちたミゲール。 彼女の胸には、いつの間にか切傷がつけられていた。


「まさか土で剣を作れるとは思わなかったぞ。しかし、最後の捨て身の一撃で……」  


 狂剣のサンピエールは、途中で言葉を止めた。 突然、口から血がを吐き出したのだ。 吐血――――呼吸器官か、消化器官に大きなダメージを受けたから。


 しかし、その理由は?


 サンピエールは背後を振り向いた。 背中に突き刺さった剣は、自身の愛剣であった長巻。


 真っ二つに割られたソレの剣先――――それが地面の砕かれた欠片が集まり、固定されていた。


「操れるのは土だけじゃなかったのか?」


「よく勘違いされる。土属性が操れるの土だけじゃないのさ。剣なんて鉱山で取れた金属を加工された物なんて、お手の物だぜ?」


「剣では殺せぬのか……いや、剣だけではなく、人が作る兵器では殺せぬ。なるほど、『世界最強の魔法使い』と言われる理由がわかったぞ」


「そうかい。私も最強の称号が更新されてうれしいぞ。それで、結局、お前は誰の手引きで私たちの抹殺にきた? お前は、教会関係者の関与をほのめかしていたが……あいにく、私は『教会』の連中とは友好的なんだ」


「わかるだろ? お前を合理的に抹殺したがってる連中がいる。思い浮かべてみろ……今、最初に思いついた連中。そいつが本命だ」


「――――なるほどな」


「ふっ……わかったか。それじゃ俺は、この世から去るとするぞ」


「いや、何を死ぬつもりになっていやがる? こんな船を残して死ぬな。普通に迷惑だろ……それに、既に治癒は始まっているんだぜ?」


「なに?」とサンピエールは自身の体を確認し始めた。


「回復魔法? 誰によるものだ? ――――まさか」


 サンピエールは、船に乗る少女をみた。


「紋章が2つ……それも『聖』の紋章。弟子も怪物ということか……」


 

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