第29話 意外です! 狂剣の剣技!
本来、魔法使いという者は後衛職。 仲間たちに守られ、遠距離から強力な攻撃を放つのが基本とされている。
しかし、ミゲール・コットは――――
『世界最強の魔法使い』
自ら前衛として、最前線に飛び込んで超火力の魔法を叩き込む。
だから、ミゲールは既にソレを開始していた。
腕に光る紋章は『獣』 元より強靭で規格外の肉体を、さらに強固な怪物へ変える変身魔法。
この日、彼女が選択した魔物はミノタウロス。
雄々しいツノが頭部から生え、強靭に変化した肉体はシンプルに、そして文字通りの腕力を手にする。
しかし――――
「遅い――――いや、遅すぎると言える」
狂剣のサンピエールは十分に離れていた間合いを瞬時に踏破してみせた。
あり得ないことではない。
たとえ童であっても、健脚ならば5メートルを駆け抜けるのに1秒かからない。
無論、それは全力疾走のトップスピードであればの話。 通常では不可能。
しかし、それを限りなく再現するのが武術の体術である。
「なっ!」と驚くミゲールに対して、
「今から反応しても、もう遅い」と無慈悲にサンピエールは剣を振るう。
だが、その手ごたえは異常だった。
「むっ……剣が弾かれる。何を仕込んでいる?」
彼の剣は、胴の直前で止まった。 それは防御魔法。しかも、ミゲールの魔力によるものではない。
「――――っ。弟子に防御させているのか?」
「1対1って決めてなかったよな? いまさら、卑怯なんて――――」
「馬鹿め! 魔法如き、斬れないと思ったか!」
アリスの魔法によって止めらていたはずのサンピエールの剣。 それが徐々にミゲールに向かい、動き始める。
その感覚、アリスは知っている。 かつてのミゲールの弟子になる時の試験で感じたソレ……
ミゲールの拳によって、防御魔法を消し飛ばれた記憶が蘇り、それが再現された。
「ま、魔法切断か!」
「その通り――――ここで死ぬがいい。ミゲール・コット!」
死を直前とした集中力は、ミゲールの感覚を鋭くさせる。
胴体…… そこの剣が触れる感覚。
皮膚が切り裂かれ―――― 血肉が切断されていく感覚。
そして、人体の生存機能として重要な箇所に届きかけた――――その次の瞬間。
勝利を確信していた狂剣のサンピエールの顔面に向かって、急加速したミゲールの拳が叩き込まれた。
「――――え?」
「――――な、なに?」
戦いを見ていた全員、何が起きたか理解できなかった。
もっとも、この中でまるで理解ができなかった人間は狂剣のサンピエールだっただろう。
勝利確信から、虚を突かれた打撃。 意識の外――――拳を認識できなかった。
それは意識への不意打ちである。 無謀に打撃を受けた人間は、いとも簡単に意識の手綱を手放す。
「ふっ……」とため息のように見えるミゲールの残心。
「紙一重だったぜ。変身魔法で肉体を堅くしておかないと、体が切断させられる所だったぜ」
彼女が見下ろすとサンピエールは倒れ込んでいる。
その様子、意識は散漫になって、立ち上がれなくなっている。
「さて、これは私の勝ちでいいのだよな? それじゃ、安全のために――――」
ミゲールはサンピエールが手放している剣、長巻を取り上げると――――地面に転がして、踵で――――踏み折る。
明らかな値打ち物。 金属音と同時に、真っ二つに破損させられた。
「私を二つに切断するつもりだったんだろ? それじゃ、お前の相棒を真っ二つにされても文句はないよな?」
「……くっ、負けたのか? この俺が?」
意識を取り戻したらしい。 狂剣のサンピエールは立ち上がろうとして、うまくいかないみたいだ。
「どう見ても、てめぇの負けだ。これで私らは無罪放免でいいんだよね?」
「――――」と無言のサンピエール。
「おい!」
「よく考えてみたが――――勝ち負けを決めるのはミゲール。お前じゃない! 俺だ!」
「――――ッ! まだやるってのかい? てめぇの武器は破壊させて貰ったぞ。流石に素手じゃ勝てねぇだろ?」
「いいや、まだ剣はあるさ!」を狂剣のサンピエールは、ふところから何かと取り出す。
筒状の何か。 先端に伸びている紐。
サンピエールは、簡易的な魔法で種火を生み出し、紐を燃やす。
その正体にミゲールは気づいた。
「おま――――それ、爆弾だろ!」
「いや、剣だ。 剣がなければ剣は振れない――――剣とは、そんな不自由ではない。我が手の内にあるもの――――それ全て剣なり!」
「そんな禅門みたいなことで、爆弾を武器にするのを正当化するんじゃねぇ! 普通に卑怯だろ!」
「黙れ! 剣士が剣以外を使ってはならないと決まりはない!」
狂剣のサンピエールは、剣だと言い切る爆弾を投げると――――
「受けるがいい! 私の斬撃を!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます