第28話 狂剣のサンピエール
「しかし、何かを忘れているかのような……」
ミゲールの独り言にヨルマガも同調を始めた。
「あなたもですか? 実は私も、何かを忘れているような気がしてならないのです」
「う~ん」と両者揃って首を捻っていると、船長が船から顔を出した。
「おい、そろそろ出発の時間じゃぞ。はよ船に乗るんじゃ!」
彼女たちは忘れていた。
それほどまでに、この新大陸までの出来事が予想外、想定外の連続だったのだが……
新大陸を離れて暫くの時間が経過すると――――
「なんじゃ、あの船は?」
最初にソレを発見した船長が驚きのあまり口を広げた。
これまでの航海で、
仮面の殺人鬼
大量の手足が生えた陸を走る幽霊船
クラーケンの大軍
さらに新大陸の未知の生物。
それでも「おもしれぇじゃねぇか!」と不敵な笑みすら浮かべていた老獪な船長ですら驚く船は――――
「あれじゃ、船と言うよりも、まるで闘技場じゃ!」
闘技場と見間違う船。
単純に大きな船の上に
奥に椅子がある。
一応、雨から身を守るように傘――――それも日差しから守るような日傘のような程度――――がある。
海上の激しい潮風や嵐を想定しているとは思えない。
そんな、海を舐めた船――――いや、舐め切った船に人がいる。
最奥の椅子に座っている人物。 それはミゲールやヨルマガも知っている人物だった。
「――――狂剣のサンピエール。どうしてここに?」
狂剣のサンピエール。
ミゲールやヨルマガが所属している国の重要人物。
国の立場では、将軍の立場を与えられている。 戦争となれば兵を引き連れ暴れ回る猛将。
時折、兵を捨て去ると単騎で敵軍に向かって行く狂戦士の部類。
なぜ、彼がここに―――― そんな疑問にサンピエールは呆れたように言う。
「なぜ、俺がここにいるのかわからないのか? アホめ……お前らの船に誰が乗っている」
「誰? 誰って……」てミゲールは、乗っているメンバーを確認した。
「私、ヨツマガ、アリスに船長とミライ……なるほど、そういうことか」
「わかったか。ならば俺と――――」
「船長が元海賊ってのが問題になったのか。それじゃ本国に帰って縛り首にでも――――」
「違うわ。その男が大海賊アデンなのは周知だろ。いまさら、問題になどなるか!」
「……船長。有名人だったのか?」
「ワシの昔話はいいじゃろ」と顔を背ける船長に若干の照れが見えた。
「それじゃ……アリスか。マクレイガー公爵のご令嬢を国外に連れ出したのが――――」
「相変らず、話が通じぬ奴め! 問題は教皇の息子だ」
「お、俺ぇ?」とミライは意外そうな表情だった。
「宗教という、国の力が発揮し難い所を突かれたのだよ。お前等、2人は教皇の息子を攫ったことになっている」
「へぇ……」とミゲールの視線が険しいものに変わった。
「私は陰謀なんてものを真っ向から捻り潰してきた。文字通り、企んだ主犯格はボロボロになるまで捻ってやった。今度は誰を捻り潰せばいい?」
「まぁ、教皇の息子を
「……なるほど、これは一種の?」
「そうだ。今から始まるは『決闘裁判』だ。文字通り、俺から無実を勝ち取って見せろ!」
『決闘裁判』
罪に問われる者が納得しない場合、剣を持ってでも無実を勝ち取れば良い。
その思想で行われる野蛮な解決法として忌み嫌われる裁判法の1つ。
「やれやれ、私と戦いたい! ってなら最初から、そう言えよ。こんな仰々しい船を持ち出しやがって!」
「この船は、見世物の決闘用として作れられたが、使われることもなく眠っているものを俺が買い取った自慢の品だ。こういう時でないと披露する機会もないのでな。許せよ」
「はいはい、つまりは自慢したかったってことだろ? すごい、すごい」
「殺す相手には、自慢の品を見せてやることにしている。冥土の土産話になるように」
「ケッ! 自分が殺される覚悟はねぇのかよ」とミゲールは悪態をついた。
「あいにく、殺される経験がなかったのでな」
サンピエールは、立ち上がる。
座っていた椅子の後ろに備えていた剣を取り出した。
特殊な剣。
(長い刀身。大剣の部類だが、それ以上に目を引くのは柄――――持つ部分が長い)
東洋では長巻術と言われる種類の剣。 薙刀と同類視される武器だ。
「まずはミゲール……1人だけか? 別に全員でかかってきてもぞ?」
「そいつはありがたい申し出だが、私1人で十分だぜ」
「……そうか」とサンピエールは構える。
刀身を横に、下に――――始めから横薙ぎを想定した構え。
離れた位置。
何も言わず戦いは始まり――――瞬時に間合いを詰めたサンピエール。
彼の斬撃が、ミゲールの胴へ襲い掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます