第53話
走りながら頭のなかでスキルの項目を選択して、新たに手にした力を表示させる。
【光り輝くはじまりの聖剣】
敵を滅する光を放つ黄金の聖剣。
剣に宿す属性を自由に変化できる。
必要能力値:知力10000以上。
消費MP:80000
【無形の武装】の新たな能力。属性を自在に変化できる聖剣。
レベルが劣るとはいえ、弱点である光属性を剣に宿せば、オーディックには効果が抜群のはずだ。
この世界に来てから、さんざんな目にばかりあってきたが、このタイミングで新たな武装を具現化できるようになったのは、運命が俺の味方してくれている。
右手に力を込めると、ありったけのMPをそそぎ込む。黒獣王を絶命させる武装を形成する。
手元から神々しい閃光が放たれて、辺りの暗闇を吹き飛ばすような黄金の輝きがあふれ出した。焼きつくされるのかと思うほどに、右手が熱くなる。
これまで目にしてきたどんな輝きよりも神秘的で、とてつもないものを呼び出そうとしていることが理解できるほどに、力の具現を感じ取る。
放出される光彩が収束していくと、神話や幻想世界に登場するような、黄金に輝く一振りの聖剣が生み出される。
「その剣が……」
隣を並走していた星崎は、具現化された黄金の聖剣に目を奪われていた。
俺のレベルが敵よりも低いので、切り札になりえるかどうか不安ではあったが、実際に握ってみて確信する。
この聖剣なら、確実にオーディックを仕留めることができる。
けど、一つ大きな問題があった。
【光り輝くはじまりの聖剣】を装備するには、知力が『10000以上』は必要だ。現在の俺のステータスでは『知力:8780』しかない。
具現化することはできても、扱うには能力値が不足している。このままでは【追尾する短剣】をはじめて具現化したときの二の舞となって、すぐに消えてしまう。
だから……。
「星崎、頼む!」
「えぇ、任せなさい」
隣を駆ける星崎が左手を伸ばしてきた。俺の手に自分の手を重ねるようにして、聖剣の柄を握ってくる。
二人で黄金の聖剣を握りしめる。
掌に伝わってくる莫大なる力の重みは、消えていない。黄金の輝きは手元のなかに残留し続けている。
はじめて【追尾する短剣】を具現化したとき、能力不足ですぐに消えてしまった。なんだそりゃって思ったよ。
でも、あのときに閃いたんだ。俺の能力値が足りなくて具現化した武器が使えないのなら、能力値が足りている他の冒険者なら使えるんじゃないかって。
さっき星崎に知力のステータスを尋ねたときに、数値が『10000以上』あることは確認済みだ。
それなら【光り輝くはじまりの聖剣】を俺が使えなくても、星崎なら使えるんじゃないかと考えた。
実際に星崎が握ることで、黄金の聖剣はここにあり続けている。試みは成功した。
きっとこれが、光城涼介としての戦い方なんだ。
スキルで具現化した武器を、自分ではなく仲間に使ってもらうことで真価を発揮する。
それこそが、光城涼介の【無形の武装】の正しい使い方。
星崎は俺と一緒に聖剣を握りしめて走りながら、一度だけ息を吸い込んだ。
そして真っ赤に燃える闘志を瞳に灯して、決然とした表情で微笑みかけてくる。
「――いくわよ、涼介。二人であいつを倒しましょう」
親愛をこめて、そう呼んでくれた。そのことが、これまで【好感度レベルアップ】で強くなったことよりも何倍もうれしくて、胸の奥が熱くなる。
自然と聖剣を握る手に、力が入った。
「おまえがいれば、俺は無敵だ」
重ねられた彼女の手のぬくもりを感じながら、共に駆け抜けていく。聖剣の輝きが暗い霧を振り払い、道を切り開いていった。
オーディックは真正面から向かってくる俺たちを睨みながら雄叫びを轟かせる。
決着のときが近い。アイツもそれがわかっているんだ。
逆手に握った『黒獣王の剣』に、怨念の塊のような黒々とした特大の【闇霧】をエンチャントしてくる。
暗闇のなかにまぎれても無駄であることは、さっきの攻防で理解したんだろう。敵も真正面から直進してきた。
ほんの瞬きにも満たない時間で迫ってくると、オーディックは右腕を後ろに引き、濃密な【闇霧】をまとわせた剣を叩き込んでくる。
暗闇に包まれたおぼろげな視界のなかで、黒獣王の姿を捉える。その挙動から、次に繰り出される攻撃を見切る。
「――左斜め前だ」
口早に、それを伝える。
星崎は瞬時に理解してくれた。
二人で聖剣を握ったまま呼吸をあわせて、左斜め前に向かって突き進む。
息のあった最高の動きで、繰り出してきた横薙ぎの斬撃をかいくぐる。背後で【闇霧】をまとった漆黒の剣が、烈風を巻き起こしていた。
オーディックの脇をすり抜けて背面に回り込むと、俺と星崎は転身。
【光り輝くはじまりの聖剣】の能力を発動。剣に宿す属性を光属性へと設定する。
これで、黒獣王を殺せる。
二人で握りしめた【光り輝くはじまりの聖剣】を、オーディックの背中に向けて打ち込む。
死の運命を変えるための、とっておきの一撃をお見舞いする。
黄金の聖剣は漆黒の鎧を突き破っていき、オーディックの肉体に深々と突き刺ささった。
その瞬間、聖剣の輝きが強まる。握りしめた聖剣から、夜空を駆ける流星のような光芒が放出された。
属性変化の能力により、弱点である光属性を宿した輝きはオーディックにとって絶大な攻撃となる。内側からほとばしる黄金の輝きに焼かれて、その命さえも燃やしつくす。
オーディックは天を振り仰ぎながら、断末魔の叫びをあげた。
聖剣から放たれるまばゆい光が収まっていくと、聖剣を引き抜く。
全身から黒煙を立ちのぼらせたオーディックは巨体を傾けていき、地面に膝をついた。
「……これでようやく、我が民のもとにいける」
黒獣王はまどろむような声で、戦いの終焉を告げてくる。
広間を覆っていた暗闇が希薄になっていく。『黒獣王の剣』の能力が失われて、朝日が差し込むように、広間が明かりを取り戻していった。
「……さらばだ。強者たちよ」
本気で殺し合っていたというのに、黒獣王オーディックは感謝でもするような清々しい声で別れを伝えてくる。
強敵と呼ぶに相応しい獣人の王が灰へと変わっていき、崩れ去っていった。装着していた鎧も、握りしめていた剣も、灰になって形を失っていく。
死闘を繰り広げた敵が、完全に灰になって消失してしまう。
地面に積もった灰の上には 夜空を連想させる美しい輝きを帯びた黒色の魂精石があった。見たことないほど、サイズが大きい。
強者を打ち倒した勝利の証が、そこに残される。
『レベルが80あがりました』
エクストラボスを倒したことで、膨大な経験値が入って、大幅なレベルアップを果たす。
星崎と朝美も同じように経験値を得ているだろう。
たぶん俺よりも、たくさんレベルアップしているはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます