第54話
戦いを終えると、星崎と一緒に握っていた聖剣も形を失っていった。手元から感触が消えていくと、聖剣は黄金の粒となって弾け散る。
聖剣の名残である光の粒子が粉雪のように天から降ってきて、俺たちの周りを舞っていた。細かな一つ一つの光が祝福してくれているように輝いていて、その美しさに見入ってしまう。
強敵との戦いを終えて、自分がまだ生きてここに立っている。
それを思うと、胸のなかを満たすものがあった。
さっきまで自分が命がけで駆けまわっていた広間を、感慨深い想いで見渡す。そこには何か、言葉では言い表せない尊いものがあるような気がした。
「これが、マナカさまが幼い頃から憧れて、求めていた景色ですね」
朝美は疲れきった顔をしていたけど、うれしそうに微笑している。俺と同じで、胸中に感じ入るものがあるんだ。
星崎は舞い散る光の粒子をその身にあびながら、頬をゆるめる。
「えぇ。これが立ちはだかる苦難を乗り切ったあとの、勝利の景色よ」
あぁ、そうか。そうなんだ。
これが、星崎がずっと焦がれていたもの。
冒険者にしか見ることのできない景色。
それがいま、俺たちの目の前にひろがっているんだ。
『ラストダンジョンメモリーズ』のシナリオに正しく沿っていれば、光城涼介はシャディラスに出会った時点で殺されている。そうでなくても、黒獣王オーディックという規格外の怪物に殺されていたはずだ。
けれど、俺は生きている。
死の運命を打ち破り、この手に勝利をつかみとって生き延びた。
こうしてまだ立っていられるのは、決して俺だけの力じゃない。
この世界で出会うことのできた星崎や、朝美がいてくれたからだ。
仲間たちがいてくれたから、こうして俺は立っていられる。
「どう、涼介? この景色を目にした感想は?」
星崎は勝利の余韻をわかちあうように、穏やかに微笑みかけてくる。
その微笑みを見ていたら、危険と隣り合わせである冒険者も悪くないと思えた。
いま自分の胸のなかにある、あたたかな想いを口にする。
「あぁ、最高に気持ちいいな」
ゲーム世界のモブに転生して、最初はわけがわからなかった。
どうして俺がって、理不尽さに嘆いたりもした。
でも、こうして仲間たちと笑いあえるのなら。
この世界に来ることができて、よかったって。
星崎や朝美と出会えて、よかったって。
心から、そう思える。
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