第28話




 ひととおり勝利の余韻を噛みしめると、武器を蔵のなかに仕舞ってドロップアイテムの回収をする。


 たくさん魔物を倒したから、白い魂精石がそこらじゅうに落ちていた。三人で手分けして集めると、リーダーである星崎の蔵のなかに全部入れておく。


 そして狂いし聖騎士が落とした、赤い魂精石も拾いあげる。


 この世界に来てから、赤い魂精石を入手したのはこれが初めてだ。結構サイズが大きい。いくらぐらいの値打ちになるのかはわからないが、苦労したぶん達成感も一入だ。


 他の魂精石と同じように、赤い魂精石も星崎に手渡して蔵に入れてもらう。


 で、もう一つのドロップアイテムである真紅の剣だが。


「光城くん、鑑定をお願い」

 

 星崎に指示されると、落ちている真紅の剣を拾いあげる。


 重量はロングソードとさして変わらない。だけど狂いし聖騎士が使っていた武器だけあって、剣そのものから発せられる圧力というか、威厳のようなものがすごい。外見だって真っ赤だし、いかにもボス専用の武器って感じだ。


 ステータス能力を使って、手にした真紅の剣を鑑定してみる。


『修羅に挑みし剣』

 強者と戦うための剣。

 戦う相手のレベルが高ければ、それに応じて攻撃力が上昇する。


 鑑定を終えて、驚嘆する。


 戦う相手のレベルが高いと攻撃力が上昇するって……敵が強ければ強いほど、この剣の攻撃力があがるってことか?


 狂いし聖騎士が落とした武器なので、かなり良いものだと思ってはいたが、これは予想以上にレアな武器だ。


 この剣があれば、格上とだって渡り合える。説明文にも書かれていたように、強者と戦うための剣だ。


 鑑定結果を星崎と朝美にも伝えると、案の定二人とも驚いていた。


「わたしたちがあの老騎士よりもレベルが高かったら、危なかったわね。もっとも、このダンジョンにレベル200以上の冒険者が踏み入ることなんてないでしょうけど」


 先ほどの俺たちとの戦闘では、この剣が真価を発揮することはなかった。それでも十分にあの爺さんは強かったが、この剣が効果を発動していたらもっと苦戦していたのは想像に難くない。 


「その剣どうするんですか? わたしはそういった近接武器はダンジョン探索では使いませんけど」


 朝美は俺と星崎の顔を交互に見てくる。


 魔術での援護と支援を担う朝美は、剣を使って戦うタイプじゃない。となると、俺か星崎のどちらかがこの剣を持つことになる。


「その剣は、光城くんが持っていなさい」


「いいのか? これがあれば、格上の敵にだって抗うことができるんだぞ?」


「だからこそよ。わたしよりもレベルの低いあなたのほうが、格上と会う機会は多いでしょ」


 なるほど。少なくとも現時点では、俺のほうが星崎よりもレベルが低い。レベルアップに必要な経験値だって、星崎よりもたくさん必要だ。


 星崎がそう言うのなら、俺が預かっておこう。


「じゃあ遠慮なくもらっておくぜ」


【蔵よ】を発動させて、異空間のなかに『修羅に挑みし剣』を収める。


 ゲームでもそうだけど、やっぱり強い武器が手に入るとうれしい。童心に返ったみたいに胸が高鳴る。


 さてと、もうここに用はないな。広間の先は道が続いていないようだし、なにより三人とも疲れている。ここらが引き時だ。戻って中継ポイントの石碑を使い、地上に帰るべきだ。


 だっていうのに、星崎はぜんぜん動こうとしなかった。


「星崎? 地上に帰らないのか?」


「え、えぇ。今日はもう帰るわ。帰るけど……」


 星崎はきょろきょろと瞳を泳がせると、なんだかもどかしそうに上目づかいになってこっちを見てくる。


「そのまえに、光城くんに言っておきたいことがあって……」


「言っておきたいこと?」


「うっ……」


 星崎は変な声をもらすと、足を後ろに引いて少しだけ上半身を仰け反らせる。


 戦っているときはあんなに勇ましかったのに、今はなんだかポンコツになっているというか、なかなか切り出せずに二の足を踏んでいる。


 そんな情けない星崎をそばで見守っていた朝美は、「マナカさま、ファイトですよ」と両手で拳を握りながら声援を送っていた。


 朝美からの応援もあって覚悟が決まったのか、星崎は気恥ずかしそうに唇を動かす。


「このまえの試験で、あなたはきちんと自分の実力を示していたわ。わたしはそのことを素直には認められなかった。それを、謝っておきたかったの」


 まさかそんな謝罪の言葉を星崎の口から聞けるとは思っていなかったので、呆気に取られてしまう。


 ダンジョンにもぐってから、ずっとソワソワとしていて、俺に何か言いたそうにしていたけど……そうか、これを伝えたかったのか。


「さっきだって、あなたはちゃんと実力を示していたわ。あなたがいなければ、危なかった場面もいくつかあった。だ、だから……」


 星崎は桜の花を散りばめたように頬を色づかせて、言ってくる。


「あ、ありがとう、ってことよ!」


 そこまで言い切ると、恥ずかしさの限界に達したのか、フンッと鼻を鳴らして、そっぽを向いてしまう。


 最後まで素直でいることはできなかったようだ。


 けど、星崎の気持ちはちゃんと受け取ることができたよ。


『好感度があがりました。レベルが30あがりました』


 その天の声が聞こえてきたからな。


 誰かに感謝されるのは、いいものだ。こっちも幸せな気持ちになる。


 ていうかレベルが200を超えたな。ステータスだけで言えば、もう老騎士を追い越したかもしれない。


 星崎は、ずっと胸に溜め込んでいたことを言い終えると、俺と目を合わせないようにしながら、足早に広間の入り口に向かって歩き出す。


 朝美はうれしそうに頬をほころばせて、星崎の背中についていった。


 俺も口元をゆるめると、彼女たちを追いかける。


 今日はダンジョンにもぐってよかった。


 星崎の好感度をあげて、レベルアップできたのもあるが、それだけじゃない。


 この世界に来てから、はじめて仲間と呼べるような。


 そんな彼女たちと、絆を結ぶことができたから。




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