第29話
昨日、星崎たちと『荒れ果てし辺境の遺跡』の隠し通路に踏み込んで、白い魂精石を大量に入手し、赤い魂精石もゲットした。それらを帰りに足を運んだ冒険者ギルドで換金してもらった。
三等分してもかなりの金額になったので、札束を受け取ったときに手が震えちゃったよ。星崎と朝美は平然としていたけど、俺にとっては大金だ。
強い冒険者ほど、強い魔物を倒して高値の魂精石を入手できるから、稼ぎが多いのは知っていたけど、ゲームならともかく、こうして自分が体験してしまうと心臓に悪い。
まぁ命を張ってがんばったわけだし、しっかりもらっておくけどね。
そして本日。いよいよ光城涼介が死ぬ日まで、残り一週間となった。
金曜日なので、学生である星崎と朝美は夕方まで学校に通っている。その間、俺は『荒れ果てし辺境の遺跡』がある石碑のもとに足を運んでいた。
ここに来た理由の一つは、近くにある武具店に立ち寄るためだ。狂いし聖騎士との戦いで、使っていた軽装鎧が破損したから、新しい鎧を購入しておく。
スピード重視の戦闘スタイルなので、買うのはもちろん重量のかさばらない軽装鎧だ。今は懐も温かいので、ケチる必要もない。
店にある物のなかで、最も上質な軽装鎧を購入する。前に使っていた鎧よりも頑丈で防御力が高い。
ついでに武器も新しいものを買った。『修羅に挑みし剣』があるが、アレは格上が相手のときじゃないと効果を発揮しないからな。同格ないし、格下と戦うための武器も持っておきたい。
死にゲーだったら、最初に入手した武器のままでエンディングにたどりつけるが、この世界ではそうはいかない。挑戦するダンジョンの難易度が高くなるのにあわせて、使用する武器も強くしていかないと生き残れない。
そういうわけで店主からいろいろと話を聞いて、『辺境遺跡の剣』というものを購入する。この剣は『荒れ果てし辺境の遺跡』のなかで、極稀に地面に突き立っていることがあるらしい。なかなか入手することのできない剣だそうだ。
見た目はロングソードと変わらないが、威力のほうはこっちのほうが断然高い。
ついこの間まで光城涼介はギリギリ生活できる程度の冒険者だったが、【好感度レベルアップ】のスキルと、星崎たちと行動を共にすることによって、飛躍的な成長を遂げている。
普通に『ラスメモ』をプレイしていても、ここまで急速な成長をすることはなかった。
装備を整えると、ここに来たもう一つの理由を果たす。
一人で『荒れ果てし辺境の遺跡』にもぐっていき、さっそく『辺境遺跡の剣』を使って獣人と戦ってみる。
前回は星崎と朝美が同行してくれていたが、今回は一対一だ。一人で挑む。
そしたら一撃で獣人を倒すことができた。昨日、『荒れ果てし辺境の遺跡』に踏み込んだときは倒すまでそれなりの時間を要したが、もうたったの数秒で片づけられる。
獣人だけでなく、獣人戦士やハウンドウルフも発見して戦ってみると、苦もなく倒せるようになっていた。
急速なレベルアップによって、強くなっている。たったの一日で、ここまで成長できるなんて【好感度レベルアップ】には驚かされてばかりだ。
だけど、光城涼介の命を奪いにくるシャディラスはレベルが500もある。まだ戦うには能力値が足りていない。残りの一週間で、どうにか間に合わせないと。
それにこの世界は、何もかもがゲームと同じってわけじゃない。
主人公くんの不在や、ありえないダンジョンの隠し通路など、『ラスメモ』とは異なる点がある。
これからも注意が必要だ。
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