第11話




 俺と星崎たちは、このまえ出会ったときと同じ『失われた洞窟』の石碑が置かれた場所まで来ていた。


 広場の中央には長方形の石碑が立っていて、周りには俺たちの他にも冒険者の姿が見受けられる。『失われた洞窟』の推奨レベルは25だから、ここにいるのはまだ駆け出しの冒険者ばかりだ。


 石碑のそばには、冒険者ギルドや武具店が並んでいる。


 冒険者を管理するために設けられた冒険者ギルドでは、ダンジョンで入手した魂精石の換金を行ってくれる。他にも冒険者ライセンスを紛失したときなどは、再発行に必要な手続きを冒険者ギルドでしないといけない。


 別の石碑の開放状況や攻略情報などもまとめてあるので、尋ねれば教えてもらえるし、回復や状態異常を治癒する魔術を扱える職員も常駐しているので、金銭さえ支払えばダンジョンから帰還した冒険者はいつでも癒やしてもらえる。


 武具店のほうでは、ダンジョンから持ち帰った装備品を売買することが可能だ。金があれば、店でより良い武器を購入できる。


 とはいえ、推奨レベルの高いダンジョンのそばにある武具店ほど、上質な装備がそろっているので、この石碑の周りにある店で購入できるのは、どれも初心者用の装備ばかりだ。そのぶん値は張らないけどな。そこらへんはゲームと同じ設定だ。


 広場の中心に設置された石碑に目を向ける。


 あの石碑が、ダンジョンへと冒険者を送り込む転移装置になっていて、異界の入り口とも呼ばれている。


 どんなに強力な攻撃や魔術を撃ち込んでも、石碑を破壊することはできない。かつて石碑を破壊しようと試みた冒険者がいたようだが、傷一つつけることはできなかったそうだ。


 石碑には現実世界のものではない不思議な文字で、いくつかの碑文が刻まれている。あの碑文に触れることによって、ダンジョンのなかに入ることができる。そして同じ石碑でも、触れた碑文によって転移先が異なる。


 基本的には、上のほうの碑文に触れればスタート地点などの上層に飛ばされて、下のほうにある碑文ほどダンジョンボスのいる下層のほうに飛ばされる。


 転移先のダンジョン内にも同じ石碑があって、それに触れることで地上にある石碑の前に戻ってこられる。


 ボス部屋のある下層まではいくつかの石碑が置かれていて、これらは中継ポイントと呼ばれている。


 まだ誰も触れたことのない石碑は無地のままだが、冒険者が触れるとダンジョン内の石碑は碑文が刻まれていき、同時に地上のほうの石碑にも新たな碑文が刻まれる。


 その新たに刻まれた碑文に触れると、ダンジョン内で碑文が刻まれた石碑のもとに転移することができるようになる。中継ポイントが開放された状態になるわけだ。


 中継ポイントは冒険者にとって地上に戻るための帰還ポイントなので、階層の多いダンジョンでは、かなり重要になってくる。


 ダンジョンボスのいる部屋にも無地の石碑が置かれているが、こちらは例外でボスを倒さないかぎり、触れても碑文が刻まれることはない。


 ダンジョンボスを倒して、ボス部屋にある石碑に触れて碑文を刻めば、そのダンジョンは攻略完了になる。それ以降は、誰でも地上からボス部屋まで一気にいける。


 一つのダンジョンが攻略されると、地上のどこかにある無地の石碑に新たな碑文が刻まれていき、次のダンジョンが開放される。


 新しく開放されるのは攻略したダンジョンの近くにある石碑が多いが、遠方にある無地の石碑が開放されるケースもあるそうだ。そういったダンジョンに関する情報は、冒険者ギルドで教えてもらうのが手っ取り早い。


 そして新たに開放されたダンジョンの命名は、冒険者ギルドが行っている。


『ラスメモ』では、この都市を拠点として活動しながら、シナリオにそって特定の石碑を攻略していくのがゲーム全体の流れだった。もちろんメインシナリオとは関係ない石碑もたくさんあったし、DLCで追加されたダンジョンなんかもあるようだ。そう友達が言っていた。


 既に攻略が完了している石碑でも、未発見のお宝だったり、強敵がいたりもするのでやり応えは十分にある。


 それにダンジョンボスがいなくても、他の冒険者のレベリングに活用されたりもする。『失われた洞窟』も攻略済みだが、こうして多くの駆け出しの冒険者たちがもぐっているのは、レベリングが目的だろう。


 逆に石碑が開放されているが、未攻略のダンジョンもいくつかある。出現する魔物が強すぎたり、厄介なギミックのせいで最下層までたどり着けなかったりするそうだ。


 ちなみに地上とダンジョン内は時間の流れが同じなので、ちょっとダンジョンにもぐって地上に戻ってみたら、何ヶ月も経っていたなんてことはない。時間を気にせず、好きなだけダンジョンを探索できる。


 俺と星崎たちは、広場の中央にある石碑に近づいていった。


 普段は他人の視線なんてあんまり感じないが、今日はやたらと他の冒険者がこっちを見てくる。正確には、みんな星崎のことを見ていた。


 さすが天才と呼ばれるだけはある。噂通り、他の冒険者からの注目度は高いようだ。それに街中でもなかなかお目にかかれないほどの美少女だからな。星崎の存在そのものが強いオーラを放っていて、みんなの目を引きつけてしまうんだ。


『失われた洞窟』の石碑の前までくると、星崎は一番上に刻まれている碑文に触れた。すると星崎の姿が徐々に透明になっていき、やがて跡形もなく消えてしまう。ダンジョンのなかに転移されたんだ。


 続いて朝美も同じ碑文に触れて転移されていく。  

 

 先行した二人と同じように、俺も石碑に刻まれた一番上の碑文に触れる。一瞬だけ視界が真っ白になると、すぐに周りの景色が洞窟のなかに切り替わって、転移が完了した。


 ここは『失われた洞窟』の第一階層。いわゆるスタート地点だ。


 俺の実力を測るための試験は、第一階層で行うようだ。おそらくレベルの低い俺のことを考慮して、あんまり強い魔物が出現しない第一階層を選んでくれたんだろう。


 高慢な態度が目につくが、そういった細かい気づかいをしてくれる星崎が悪いヤツじゃないことはわかってきた。




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