第7話




 星崎たちが立ち去ると、一人だけ取り残される。


 暴れ熊の魂精石を回収しないで行ってしまったけど、俺がもらっちゃってもいいのかな?


 二人に忠告されたとおり、またこのダンジョンにいる魔物にエンカウントしたら、次は助からないかもしれない。すぐにでも地上に帰るべきだ。


 でもそのまえに、確認しておきたいことがある。


 ステータスの能力を使って、自分のスキルをチェックする。


 本来なら光城涼介が持っているユニークスキルは【無形の武装】だけのはず。


 だが、そこにありえない二つめのスキルがあった。


【好感度レベルアップ】

 特定のキャラの好感度が上昇すると、レベルがあがる。

 該当するキャラが近くにいないと、効果は発動しない。

 このスキルは、他者に知られたら効果を失う。


 スキル内容を確認すると、喉からうなり声がもれる。


 俺は『ラスメモ』を最初のほうしかプレイしていないけど、こんな奇妙なスキルがゲームに存在しなかったことだけはわかる。好感度をあげたらレベルアップできるなんて、完全にダンジョン攻略を目的としたゲームとは趣向がかけ離れているからな。


 仮にあったとしても、モブの光城涼介が持っているのはおかしい。こういったスキルは、プレイヤーの分身である主人公が持つべきものだ。


『ラスメモ』においてのスキルは、魔術とは異なる特殊能力。選ばれし者しか得られない力と、ゲームではそういう設定になっていた。


 最初からスキルを覚えていたり、一定のレベルまであげないと覚えなかったり、特殊イベントを起こす必要があったりと、キャラごとによって獲得条件は様々だ。


 冒険者以外にも、極稀にだがスキルを使える魔物が登場したりもする。


 そしてゲームの原則として、スキルは一人につき、一つまでしか獲得できない。


 キャラのレベルがあがれば、自動的にスキルが強化されて新たな能力が使用できるようになるが、それはあくまでも同じスキルの範囲内で使用できる能力の幅が増えるだけだ。 


 まったく種類の異なる二つのスキルを、一人のキャラが同時に持つなんてことはありえない。


 だっていうのに俺が転生したモブキャラの光城涼介は【無形の武装】と、たったいま獲得した【好感度レベルアップ】なんていう異なる二つのスキルを同時に所持している。


 ゲームのルールから外れた、ありえないことが起きていた。


 考えられる可能性があるとすれば、それは俺がゲームキャラに生まれ変わった転生者だということ。


 もしかしたら、二つのスキルを同時に所持できているのは、転生者の特典なのかもしれない。


「とりあえず、ステータスを確認してみるか」


 本当に【好感度レベルアップ】なんていう奇妙なスキルが効果を発動していたのか、チェックしてみる。


【光城涼介】

 レベル:20

 HP:2200/2200

 MP:1800/1800

 攻撃力:290

 耐久力:270

 敏捷性:280

 体力:260

 知力:220


 ……レベルアップしている。


 ついさっきまでとは別人と言っていいほどに強くなっている。


 このステータスなら、暴れ熊と一人でエンカウントしても向こうにまわせる。


 たった一瞬でここまで成長できるなんて、破格のスキルなんじゃないか、【好感度レベルアップ】ってやつは。


 そういえばこのスキルを獲得したときに、天の声は『好感度があがりました』って言っていた。そしてスキル能力の説明には『特定のキャラの好感度が上昇するとレベルがあがる』とある。

  

 あのとき俺は、見下した態度を取ってきた星崎に反論して睨み返していた。


 朝美……ではないな。彼女は俺が星崎に刃向かったことに慌てていたから、とても好感度があがったようには見えなかった。


 となると、さっき好感度があがったのは、星崎マナカということになる。星崎の好感度があがったことで、俺のレベルも一気にあがったんだ。


「死ぬ予定のモブに転生させられて、詰んだと思ったが、光明が見えてきたな」


 残り十二日。たったの十二日しかない。


 地道にレベルあげなんてやってても、運命の日には到底間に合わない。このままだと光城涼介はゲームのシナリオどおりに殺される。


 だったら、やるっきゃねぇ。


 さっきまで目の前にいた、真っ赤に燃える炎のように、強さと美しさを兼ね備えた少女。


 星崎マナカの好感度をあげるしかない。


 彼女の好感度をあげて、高速でレベルアップしまくる。


 この【好感度レベルアップ】のスキルで、俺は死の運命を乗り越えてみせる。


「…………」


 でもなぁ。俺って現実世界では女性と付き合った経験なんてないし、女の子との恋愛を楽しむ美少女ゲームだって、あんまりプレイしてこなかったんだよなぁ。


 ついさっきまで目の前にいた、星崎マナカのことを思い浮かべる。


 俺のことを冒険者として認めておらず、すっごく高慢でとっつきにくい空気を放っていた。


 本当にあんな気難しい女の子の好感度なんてあげられるのか?


 死にゲーと同じで、難易度はやさしくなさそうだ。




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