第8話




『失われた洞窟』で星崎たちと出会い、【好感度レベルアップ】というおかしなスキルを獲得してから、俺はゲームの舞台となる都市内を歩きまわった。


 もしかしたら、星崎や朝美の他にもネームドキャラと出会えるかもしれないと考えたからだ。  


 それで【好感度レベルアップ】の『特定のキャラ』の効果に該当する人物がいれば、そのキャラの好感度もあげていきたい。そうすれば、レベリングの効率が更に良くなるはずだ。


 だけど、どこを探しても見覚えのあるキャラとは出会えなかった。もしかしたらネームドキャラとすれ違っていたのかもしれないが、俺は『ラスメモ』を勧めてきた友達みたいに全キャラの顔と名前を把握しているわけじゃないからな。


 こういうときゲーム知識があれば、あのキャラは普段あそこにいると目星をつけて会いに行けるのに。『ラスメモ』を序盤だけしかプレイしなかったことが悔やまれる。


『失われた洞窟』を訪れてから二日が経ったので、残りは十日だ。


 十日後には、アイツに殺される。


 シャディラス。  


 それが、光城涼介を殺す敵の名前だ。


 通常なら魔物は、ダンジョン内に設置されている石碑に触れても地上には出てこられない。だが、ときおりダンジョン内の魔物が石碑から地上にあふれ出てくる現象が起きる。


 この世界では、それをダンジョン災害と呼んでいる。


 ダンジョン災害は時間経過によるものか、もしくは魔物があふれてきたダンジョンのボス部屋にある石碑に触れれば収束する。


 地上にあふれてしまった魔物を討伐するのも、冒険者の仕事の一つだ。


 地上で生活している人々からすれば、ダンジョン災害は迷惑でしかない。なんたって、ファンタジーな世界のバケモノどもが出てきてしまうんだからな。


 そのダンジョン災害が十日後に起きる。地上に魔物たちがあふれてしまう。


 その際に、シャディラスは地上へと出現し、標的である俺は殺されるわけだ。


 ついでにそばにいる主人公くんも殺されそうになるが……この世界では主人公くんが不在なので、どうなるんだろう? 別の冒険者がシャディラスを退けるのかな? こればっかりは、そのときになってみないとわからない。


 そういえばシャディラスは、なんらかの可能性がある者を探すために、自分がダンジョンの外へと踏み出すことが目的……みたいなセリフを口にしていた気がする。もしかしたら、意図的にダンジョン災害を引き起こせる方法を知っているのかもしれない。


 光城涼介を殺した後、ゲーム内の主人公の覚醒によってシャディラスは一度退くが、シナリオを進めていけば再登場して戦うことになっている。


 俺はそこまで『ラスメモ』をプレイしてないから詳しくは知らないけど、かなりの強敵だって友達は言っていた。


 レベル500はないと倒せないって。


 それが俺にとっての目標レベルだ。少なくともレベル450以上はあげて、十日後にはシャディラスを迎え撃てるようになっておきたい。


 そんでゲームシナリオを覆して、生き延びてやる。


 そのために、友達が早口で話してきた『ラスメモ』の知識をうろ覚えながらも引っ張り出そうとしたが、あまり思い出せた記憶はなかった。


「あの黒いモジャモジャ」とか、「黒獣王が倒せないよぉ」とか、「スリップダメージが鬼畜すぎて、プレイヤーみんなの心がへし折れちゃった」とか、そんなことを言っていた気がする。……たぶん。


 基本的に、あいつの話は興味ないことばかりだったからな。ちゃんと聞いてなかったんだよな。喋り方も、ちょくちょくキモかったし。これからさき、何か使えそうな情報を思い出せたらいいんだが。


 でも、こうして転生したことで光城涼介という人間については、よく知ることができた。

 

 光城涼介は父親が男手一つで育ててくれたようだが、その父親も去年に他界している。親戚もいなくて天涯孤独の身だ。まだ若いのに、重たい設定を抱えていたことには驚かされたよ。ゲームではモブだったから、そのへんはまったく説明されていなかったからね。


 二ヶ月前に冒険者になるまでは、バイト生活をしながら家賃の安いアパートで一人暮らしを送っていた。


 冒険者という職業についたのは、憧れを持っていたり、明確な目標があるわけじゃなくて、たまたま冒険者としての素質があったから、やりはじめただけだ。今よりも多少はマシな生活が送れるかも、くらいの気分だったようだ。


 冒険者になってから人並みの生活はできているが、残念ながら活躍しているとは言いがたい。レベルだって、そんなにあがっていないし。


 つまりこの光城涼介という男は、冒険者としての才能がなくて、やる気のない大人だったというわけだ。


 そんな光城涼介になった俺は、これから星崎マナカと接触しなきゃいけない。レベルアップして、十日後を生き延びるためにね。


 他にも【好感度レベルアップ】の効果が有効なネームドキャラがいれば、そっちにも働きかけるつもりでいたが、今のところ星崎にしか出会えていない。だったら他のキャラを探すよりも、星崎の好感度をあげることに注力したほうが良さそうだ。


 そう考えた俺は、ダンジョンの近くにいる他の冒険者たちに声をかけて、星崎マナカについて調べた。それだけで丸一日かかってしまったよ。 


 星崎マナカは、新米冒険者のなかでも注目度が高い。その才能は凄まじく、新人でありながらすこい早さでレベルアップしている。相手が自分よりも格上の魔物でも、撃破することができるようだ。


 数十年に一人の天才。そう呼ばれるほどの逸材だ。


 しかも両親は資産家で、富裕層でもある。完全に人生の勝ち組だな。


 星崎は冒険者の間じゃ有名人だったんだな。それを知らずに俺があんな口を利いたから、朝美は取り乱していたんだろう。


 星崎のことを調べていると、友達の言葉で思い出したことがあった。


 星崎マナカはゲーム内でもかなりの強キャラなんだけど、仲間にできないから多くのプレイヤーが嘆いたとか。俺の友達もそうだった。それだけ人気が高い女性キャラなんだろう。


 その人気キャラに、俺は接近しなきゃいけない。


【好感度レベルアップ】の能力説明には、『このスキルは他者に知られれば効果を失う』とある。 


 ということは、こっちの事情を打ち明けて、俺への好感度をあげてくれと星崎に頼み込んでも、【好感度レベルアップ】の正体を知られてしまったら、スキルの効果が失われてレベルアップができなくなるということだ。


 というかそもそも、俺はこの世界の人間じゃなくて転生者なんだよ、って話したところで信じてもらえるとは思えない。むしろ、変なヤツだと勘違いされて好感度があげにくくなってしまう。


 好感度をあげるなら、【好感度レベルアップ】のことはバレないように伏せてやらないとな。


 星崎のことを調べると、さっそく俺は好感度をあげるために行動を開始する。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る