チャプター4 Cutting
十
十一月十八日 十七時四十八分
また猫塚はるだ。音琴がプラネタリウムドームに足を踏み入れた時、その存在に気付いた。
「おー音琴ちゃん! 来ると思ったよ」
猫塚はまたも真ん中の席を陣取って、声を掛けてきた。プラネタリウムを観る人が増えるのは嬉しいけれど、それが猫塚の様な騒々しい人物なのは困りものだ。
「ほら、こっち来て座りなよ」
猫塚は音琴に手招きして促す。仕方ない。音琴は自分から猫塚の真隣に座った。
「また何かあったの?」
音琴は訊いた。本来、プラネタリウムドームの中で話すことを良しとしない音琴だったが、興味があった。
「うーん、えっとー、何も無いよ?」
猫塚の顔は、暗がりでよく見えなかった。
「全く何も無いってことは無いでしょう?」
「ほんとに何も無いんだよ? 何か無いと来ちゃダメなの?」
「そんなことは無いけど……何も無いのにここに来るなんて、それじゃまるで――」
「アタシがプラネタリウム好きになったみたい?」
「うん。そう言おうとした」
「アタシがプラネタリウム好きになっちゃ嫌? 仲間出来ていいじゃん」
一人で観るからいいのにな。この陽キャはそういう考えは持ち合わせていないのだろうな。何でも誰かと一緒じゃないと気が済まない。群れているだけで勝った気になる。そういう考えは、音琴は嫌いだった。カラオケだって一人で行くし、ラーメンだって回転寿司だって焼肉だって。でも。
「まあ確かに。一人で観るのとは違った発見だったり楽しみだったりがあるかもだけど。私一人じゃ気付けないこと、猫塚さんだから気付けることはあると思う。そういった話を共有するのは前まで思っていたよりも有意義に感じた。うん。異文化交流っていう感じでで楽しい。それにしても吃驚したなあ。猫塚さんたら、感想訊かれてすぐ口に出せるんだもんな。しかも目の付け所がいいし。」
「やっぱり音琴ちゃんって、アタシと二人だとめっちゃ喋るよね」
「えー、またその話?」
音琴は、自分の顔が梅干しになったかと思った。
「え、だって気にしてないって言ったじゃん」
それを額面通りに受け取るバカがどこにいようか。仕方ないな。
「猫塚さんといるとめっちゃ喋るかというと、全然そんなことはないよ」
「嘘。そんなことあるって。音琴ちゃん教室じゃ全然喋らないじゃん。この間も今日も教室比千パーセントくらい喋ってるよ」
それはまあ、確かにそうだけど。
「それって、私が猫塚さん以外の人と話すこと勘定に入ってないよね?」
「え? だって音琴ちゃん友達いないじゃん」
「い、いるし」
音琴はどもった。失礼な。
「でも、教室で誰かと話してるところ見たことないよ?」
何の為に朝早く登校してると思ってるのか。まあ、ショートホームルーム直前に来る猫塚に分かる訳はないし、そもそも何も無くても朝早く行くんだけど。
「猫塚さんは知らないだろうけどね」
あ、まずい。秘密だった。
「ん? なに?」
「い、いやー。何でもないよ?」
音琴がそう言った瞬間、プラネタリウムドームは闇に吞まれた。
「ほんとにぃ?」
音琴はこの問いに、シーという声と人差し指を唇に当てたポーズで応えた。
「オッケー! じゃあ後は静かに待ってよーねー」
「うん、そうだね」
言われなくてもそうするわ。全く、猫塚といると調子を崩される。
少し経って、プラネタリウムが始まった。
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