第32話 おやつ
数分、廊下で待っていると、星恵ちゃんが教室から出てくる。
「やっほー、お待たせ」
「うん、行こうか」
俺達は肩を並べて歩き出す──。
「メイド姿、どうだった?」
「メッチャクチャ可愛かったよ。それに今日はポニーテールにしてるんだね、凄く似合ってる」
星恵ちゃんは恥ずかしそうに俺から顔を逸らすと、「もう……褒めすぎ!」と言いながら、俺の腕をコツンと突く。
「えへへ」
「さっきは助けてくれて、ありがとう」
「いやぁ……大したことないよ」
「うぅん、メッチャカッコ良かった。思わず抱きつきたくなるぐらいにね!」
俺は星恵ちゃんの方に顔を向けると「抱きついちゃえば良かったのに」
「皆が居るのに、そんな事できる訳ないじゃん!」
「じゃあ……みんなが居なければ出来るの?」
「ふぁっ!?」
星恵ちゃんはそう声を漏らすと──その先を何て答えるか考えている様で黙り込む。その答えが気になったが、俺は「あー……ごめん、ごめん。冗談だよ」と無かったことにした。
そしてズボンから携帯を取り出すと「あ、いま15時か。しまった星子さんの占い通り行動しなかった」
「ふふ、大丈夫だよ。占いなんて当たるも八卦、当たらぬも八卦なんだから!」
俺は携帯をズボンに戻しながら「そうだな」
「それに先を知らない方がドキドキするじゃない?」
「うん、そうだね。さて……まずは何処に行く?」
星恵ちゃんは人差し指を顎に乗せると「んー……まずはオヤツにしよう!」
「分かった。じゃあ中庭に行ってみようか?」
「うん」
※※※
俺達は中庭に着くと、辺りを見渡す。中庭にはいくつも露店が並んでいて、生徒や一般の人が大勢、集まっていていた。
「何にする? あっちにミニパフェがあるみたいだよ」
「パフェか……パフェも食べたいけど、私はシュークリームにする」
「シュークリームが好きなの?」
「うん! 小さい頃に駅前のシュークリームを食べてから好きになって、あればいつも選んでるんだぁ」
「へぇ……じゃあ俺もシュークリームにしよ」
「分かった。じゃあ行こ!」
俺達はお菓子を売っている露店に並んだ──混んではいるものの、既に出来上がったものを売っているので、直ぐに人は減っていく。それに星恵ちゃんと会話を楽しんでいたので苦にはならなかった。
俺達はシュークリームを無事にゲットすると、近くにあるベンチに座る。
「楽しみだね……」と星恵さんは言いながら、シュークリームが入った透明のビニール袋を開ける。
俺も袋を開けながら「うん」と返事をした。
「いただきまーす」と、星恵ちゃんはシュークリームを口にして「──美味しいぃ! コンビニより美味しいよ、これ! 注目しておいて良かったわぁ」と、満面な笑みを浮かべる。
それだけでも可愛いのに、プクッと膨らんだ柔らかそうなホッペに生クリームが付いている。子供みたいで可愛いので、このまま見てはいたいけど──。
星恵ちゃんは首を傾げると「食べないの? 凄く美味しいよ」
「食べるよ。その前に……ここ」と、俺は自分のホッペを指さす。
「ん?」と、星恵ちゃんは最初は分かっていない様子だったが、直ぐに「あ!」と声を漏らすと「もしかして、生クリームが付いてる!?」
「──う、うん」
星恵ちゃんはサッと、俺から顔を逸らすと「あ~……やっちゃった。恥ずかしいなもう……」と言って、スカートのポケットからハンカチを取り出し、拭き始めた。
本当は俺もハンカチを持っていた。だけど、彼女とはいえ、さすがに拭いてあげるまでは恥ずかしくて出来なかった。
星恵ちゃんはこちらに顔を向けると「取れてるよね!?」
「うん、大丈夫」
「もう……分かってたんなら、早く言ってよね!」
「ごめん、ごめん。ところでこの後はどうする?」
俺はそう質問すると、シュークリームを食べ始める──。
「行きたい所があるの。付いてきてくれる?」
「分かった」
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