第31話 ヒーロー
教室に戻り、出口側から教室を覗くと、さっきの男たちは既に待合席から移動していた。くそっ! どこに行った!?
教室をキョロキョロと見渡すと、男たちは椅子に座り、いやらしい目つきで星恵ちゃんに注文をしていた。
「ごゆっくりどうぞ」と、星恵ちゃんが頭を下げ、席を離れようとした時、茶髪の男が星恵ちゃんに向かって手を伸ばす。
マジかよッ!! 俺は出てくるお客さんを「すみませんッ!」と謝りながら押し退け、教室の中に入る……が、遅かった。
茶髪の男は星恵ちゃんの手を掴み「ねぇ、君なんて名前? 何時に休憩に入るの?」と、ナンパを始める。
「な、何するんですか! 離してください!」と、星恵ちゃんは怯えた表情で手を振り解こうとするが、茶髪の男は離さない。
既に怒りが頂点に達していた俺は茶髪の男に駆け寄ると、後先構わず「俺の彼女から、汚ねぇ手を離せよッ!!!」と、怒鳴りつけ、睨みつけた。
茶髪の男も俺を睨みつけ「あぁん!」と威嚇してきて、友達らしき男は席を立つ。
こんな所で、やろうってのか? 俺はさすがにちょっと怖気づいたが、勇気を振り絞りその場を動かなかった──するとクラスメイト達が、続々と席を立ち──茶髪男たちを取り囲む。
「な、なんだよッ!?」と、茶髪男は声を荒げ、虚勢を張るが、この状況にビビっている様で、目を泳がせていた。
「他のお客様に迷惑が掛かりますので、ナンパするなら出て行って貰えますか?」と、田中さんが冷静に言って、他のクラスメイトも「そうだ、そうだ。出て行けよッ! 出て行かないなら先生を呼ぶぞ!」と援護してくれる。
茶髪男は黙って席を立つと「──ちッ……行こうぜ」と言って、出口側に向かって歩き出した。友達らしき男も、俺達を睨みながらも教室を出て行く──。
二人が完全に居なくなると、教室内は拍手喝采が起こった。
「井上、カッコ良かったぞ!」
「本当、ステキィ~!」
「ヒューヒュー」
「いやぁ……そんなぁ……」と、俺が照れていると、高橋さんが近づいて来て「どうしたの?」と首を傾げる。
「さっきね、井上君が俺の彼女から、汚ねぇ手を離せよってナンパ男から星恵さんを救ったのよぉ」
田中さんが興奮気味に説明してくれたのは良いけど……そこはセリフいらんだろッ!!! 恥ずかしすぎて、メッチャ変な汗が出てくるわ!!!!
「へぇ……光輝君、ヒーローじゃん!」
高橋さんにそう言われ、調子に乗った俺は「はい。俺、ヒーローっす」と、冗談で答えた。たちまち教室が静かになるのが分かり、滑ったことを実感する。
「さぁ……皆。仕事に戻りましょうかね」と、田中さんがいうと、クラスメイト達は蜘蛛の子を散らす様に去っていった──。
残った高橋さんは「えっと……い、いつでも星恵と交代できるよ」
何で高橋さんが動揺しているんだい? なんだか申し訳ない気持ちになる。
「あ……ありがとう。えっと……」と、俺は辺りを見渡し、星恵ちゃんを見つけると近づく。
「星恵さん、高橋さんが交代してくれるって」
俺がそう言うと、星恵ちゃんは壁掛け時計に目をやり「え? でも時間まで30分ぐらい時間あるよ?」
「良いよ~。怖い目にあったんだから、それぐらいサービスしてあげる」と、高橋さんは言ってニコッと微笑む。
「菜緒、ありがとう。じゃあ光輝君。私、着替えてくるから廊下で待ってて」
「分かった」
俺がカーテンの方に向かって歩いていく星恵ちゃんを見送っていると、「間に合わなくて、ごめんね。こんな事が起こる前に助けたくて、私と交代させたかったんだね」と、高橋さんが謝ってくる。
「いや……高橋さんが謝る事じゃないって。むしろ交代に来てくれて、ありがとう」
「別に良いよ。その代わり……」と、高橋さんは返事をして、何故か強めに俺の背中を叩く。
「星恵のこと頼んだぞ、彼氏君!」
「あ、うん。分かった」
背中はジンジン……と痛いが、高橋さんに彼氏として、ようやく認められた様で嬉しい。俺は温かい気持ちで、出口に向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます