第22話 クラスの出し物は縁日
ガヤガヤと騒がしい教室の中、文化祭実行委員会の男子は手を叩きながら「はーい、静かにしてください。うちのクラスの出し物は縁日で決まりです」と言った。
縁日か……いいね! 女子は浴衣姿になったりするのかなぁ? ──いや、大変だから無理だろうな。まぁ、そうじゃ無くても恋人になって初めて過ごす文化祭なんだ。きっと楽しいに違いない。
──こうして出し物が決まった俺達は放課後、学校に残って、少しずつ文化祭の準備を始めた。その甲斐があり、前夜祭がある日には、ほとんど完成していた。
何か手伝う事はないかと、周りを見ていると、机を持ったクラスメイトの男子が「光輝、ちょっと退いてくれ」と、目の前を通ろうとする。
俺は慌てて後ろに避けた──が、なんと後ろに何かがあって、足を取られて豪快に転んでしまう。
「きゃあ!!」
「おい、大丈夫かよ!?」
クラス内が一気に騒がしくなる。それもそのはずだ。俺が転んだ場所は水の入ったプールの中だったのだから。
真っ先に星恵ちゃんが慌てた様子で俺に近づき「光輝君! 大丈夫!?」と心配して手を差し伸べてくれる。
俺は星恵ちゃんが濡れてしまうので自分で手を着いて起き上がった。
「はは……やっちまった」
「痛いところない?」
本当はお尻が痛いけど、我慢をして「うん、大丈夫。金魚が入る前のプールで良かったよ」
「もう……冗談を言う余裕があるから大丈夫そうね。いま保健室からタオルを持ってきてあげるから、ここで待ってて」
「面目ねぇ」
──何人かのクラスメイトが文句も言わず、床を拭き始める。
「ごめん」
「いいよ、いいよ。誰にだって失敗はあるって」
「そうだよ」
クラスメイトはそう言ってくれて、本気で泣きそうになる。高橋さんは俺に近づき、「制服を絞るならどうぞ」と、バケツを床に置いていってくれた。
「あ、ありがとう」
普段はクラスメイトと、あまり関りを持たない方なのに……こういう時、クラスメイトの優しさを知る。
──しばらくして、星恵ちゃんが戻ってきて「光輝君、借りて来たよ」と、俺にハンドタオルを差し出す。
「ありがとう」と俺は返事をして、星恵ちゃんからハンドタオルを受け取った。
直ぐに体や髪を拭いて、水が垂れてこない事を確認すると、机にタオルを置く。今度は雑巾を手に取り、濡れた所を拭き始めた。
「光輝君、私がやるからもう帰ったら?」
「いや、自分がやった事だし、拭き終わってから帰るよ」
「もう……真面目なんだから」
星恵ちゃんはそう言いながらも、近くにあった雑巾を手に取り、床を拭くのを手伝ってくれた。
※※※
次の日の朝。何だか寝苦しくて、目を覚ます──あれ……何だか体がダルイ気がする。
「やべぇ……やっちまったか?」
俺はゆっくり上半身を起こし、ベッドから立ち上がった──部屋を出て一階に下りると、キッチンにいる母親に「体温計、どこ?」
「え? 風邪引いたの?」
「分からねぇ」
「昨日、濡れて帰ってくるから……」
「仕方ねぇだろ。で、どこにあるの?」
「リビングにある棚の中よ。救急箱の中」
「分かった」
俺がリビングに向かって歩き出すと、母親は「熱があったら休みなさいね」と言ってくる。
「あー……分かった」
きっと、ダルイのなんて気のせいだ。俺は救急箱から体温計を取り出すと体温を測りだす──ピピピと体温計が鳴り、取り出して見ていると、母親が俺に近づきながら「何℃だった?」と聞いてくる。
聞くなよ……っと、イライラしながら俺は「36.5℃」と嘘をつく。本当は37.5℃と微妙な所だった。
「本当に?」と母親は疑いの目で見つめ、俺から体温計を取り上げる。そして体温計の温度をみると「あら……微熱があるじゃない。今日は休みなさい」
「これぐらい大丈夫だって!」
「ダメよ、悪化したら大変だし、周りの人にも迷惑が掛かるでしょ?」
うぅ……ぐぅの音も出ない……でも行きたい!
「どうしてそんなに行きたいの?」
「え?」
「あなたいつも学校を休んで良いよって言ったら喜ぶじゃない」
「それは──」
星恵ちゃんと過ごしたいからなんて口が裂けても言えないよな……何で親ってこう、答え辛い時に追求してくるんだ?
「学園祭だからに決まってるじゃん」
「そう……とにかくダメよ、寝てなさい」
「──はーい」
俺は諦め、体温計を救急箱に戻すと、自分の部屋へと戻った──。
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