第15話 ツンデレ女子みたいなセリフ
それから数日が経ったある日の放課後。俺は一人で帰っていたが、家で食べる御菓子と飲み物が欲しくなり、コンビニに寄っていた。
何にしようかな……と、商品棚を見つめていると「──あ……」と、明日は小テストがある事を思い出す。
教科書は学校だし、どっすかなぁ……とりあえず買い物を済ますか──俺は目的のお菓子と飲み物を買うとコンビニを出る。
──赤点とって、怒られるのも嫌だし……しゃーない、戻るか。俺はゆっくりと学校に向かって歩き出した。
──教室に戻ると、既に誰も居なかった。きっとクラスメイトは帰ったか、部活に行ったのだろう。俺は教科書を回収すると、教室から出る──。
玄関に向かって廊下を歩き出したが──戻ってきたついでにトイレに寄っていくかと、反対に向かって歩き出した。
──トイレで用を足し、そのまま正面にある階段を下りようと歩き出す。すると踊り場の方から聞き覚えのある女子の声が聞こえてきた。下を覗き込むと、圭子と星恵さんが向き合いながら立っていた。
あれ? あの二人、知り合いだったのか? ──いや、誕生日の出来事の事を考えると、最近、知り合ったのかもしれない。
「ごめんなさい。急に呼び出したりして」と、星恵さんが切り出す。
「別に大丈夫だよ。それより話って何?」
圭子がそう聞くと、星恵さんは何か話しにくいことがあるのか、落ち着かない様子で髪を撫で始めた──。
俺が上から見ているのに、二人は視線をこちらに向けない。どうやら二人はまだ俺に気付いていない様だ。
このまま盗み聞きしているのは悪いよな……俺は続きを聞きたい気持ちを抑えながら、ゆっくりと歩き出す。
「光輝君のこと……」
ドキッ!!! 星恵さんが行き成り俺の名前を出したので心臓が高鳴る。俺がどうしたんだ? 気になり過ぎて、悪いと分かっていても俺は足を止めた。
「あなたと光輝君のこと……勝手だけど、相性占いをしたの」
何だって!? 俺はそれを聞いて動揺しているのに、圭子は顔色一つ変えず涼しい顔で「へぇー……どうだったの?」と、腕を組む。
星恵さんは俯き加減で「──羨ましいと思うぐらい凄く良かった」
嘘だろ……だったら何で疎遠になったんだ? 俺は圭子の反応が気になり、ずっと見ていたが、圭子は眉毛をピクリッと動かした──だけで、それ以外は何も反応しなかった。
「だから──本当は黙っておこうかと思ってた。だけどそれは卑怯な気がして……あなたに正直に話そうと呼んだの」
「──そう……」と、圭子はようやく口を開く。そして星恵と顔を合わせているのが気まずくなったのか、床の方に顔を向けた。
──そこから沈黙が続く。ちょっとでも動けば響いてしまいそうなぐらい、辺りは静まり返っていて、迂闊には動けない。俺も身動きせず、その場で黙って立っていた。
「じゃあ……」と、圭子は口にして顔をあげ、星恵さんを見つめると「私も正直に話しちゃおうかな」
星恵さんは眉を顰め「え……?」と、声を漏らす。
「少し長くなるけど良い?」
「う、うん……」
「いまは大分良くなったけど、小学校の時の私はね。男の兄弟に挟まれて育ったせいか、口が凄く悪くてね。クラスメイトの男の子に、女のくせに~って馬鹿にされていた時期があったの」
圭子はそう昔話を始めると、落ち着かないのか両手を後ろで組み、星恵さんに背を向け、ゆっくりと歩き出す。
「それを別に男だろうが女だろうが、口が悪くたっていいじゃん。悪口を言うやつより、よっぽど良いよ! って、庇ってくれたのが光輝だった」
「光輝君らしいね」
圭子は星恵さんに背中を向けたまま、ゆっくりと立ち止まると「うん……」と返事をした。
「それがメッチャ嬉しくてね。私は思わず光輝君の両手を掴んで、ありがとう! って、御礼を言ったの。そうしたらあいつ──」
圭子はそこまで言い掛けると、思い出し笑いをしている様でプルプルと肩を震わせる。
「お、おい。離せよッ! って、照れくさそうに言って、私から顔を背けると、別に俺は言いたい事を言っただけだし! って、ツンデレ女子みたいなセリフ言ってさ……」
悪かったな……クラスメイトにメッチャ見られてて、恥ずかしかったんだから仕方ないだろ。俺はそう言いたかったが、言える訳もなく、その場にとどまった。
「その時、光輝は女の子が苦手なのに、守ってくれたんだ……って、気付いて、可愛いしカッコいいし、もう……って、好きになったの」
「その気持ち分かる!」と星恵さんが返すと、圭子はクルッと振り向き「でしょ!」と、興奮気味に答えた。
だけど急に表情を暗くして俯くと「それから猛烈にアピールしたんだけどさぁ……あいつ超鈍感で私の気持ちに全然、気付いてくれなくて……中学に入った頃には照れくさくて、そんなこと出来なくなって、気付いた時には疎遠になっちゃった」
思わぬところで疎遠になった理由を知る。俺は本当に鈍感だ。てっきり俺と遊ぶのが、つまらなくなったのだとばかり思っていた。
「──でも、なかなか忘れられなくてね……光輝とはもう終わったんだ。忘れよう忘れようって思って、他の男と付き合ったりしていたら、最低な男に捕まっちゃった……」
星恵さんは掛ける言葉が見つからないのか、黙っている。俺もそうだ。そんなにも慕ってくれていた圭子の気持ちが凄く嬉しいのに、何と言って良いのか思いつかない。
「私……ね。あいつに嘘をついている事が1つあるんだ」
「嘘?」
「うん、それはね──元カレがいらないからあげたって、誕生日にクッキーをあげたこと。本当は光輝にあげたくて作ったんだ」
「──どうしてそんな嘘を?」
圭子は落ち着かない様子で髪を撫でながら「光輝の誕生日の数日前にね。私、元カレが浮気している現場を目撃していたの」と口にした。
「悲しくて……寂しくて……辛くて……まだ別れても居ないのに、クッキーをキッカケに、光輝と前みたいな関係に戻りたい! そう思って作ったクッキーだったから、本当の事が言えなくて……」
「そうだったんだ……」
「私はもう別れてフリーだから、遠慮なく光輝にアプローチできる訳だけど……」と圭子は言って顔を上げる。
そして、引き攣った笑顔を浮かべると「安心して、私はもう二回も振られてる」
「え?」
星恵さんが首を傾げると、圭子はゆっくり星恵さんに近づき、肩にポンっと手を乗せた。
「あいつね──私じゃないどこかの誰かさんと前に進みたいんだって……だから、その相手は正直に話してくれたあなたであって欲しいと、私は思ってる。あいつの相手は苦労すると思うけど……頑張って! 応援してるよ」
「ありがとう……」
二人はお互い言いたい事を言い合ってスッキリしたようで、清々しい笑顔で微笑む。俺はそんな二人をみて、温かい気持ちのまま、その場を離れた。
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