第13話 デートをドタキャンするぐらい大事な用って、何ッ!?
ある晴れた日曜日。俺はいつも読んでいる漫画の新刊の発売日だったので、駅の近くにある書店に向かって自転車を走らせていた。
──赤信号で止まると、道路を挟んだ向かい側で口論をしている男女が目に入る。あれって……圭子、だよな……?
俺はとりあえず自転車から降り、青信号になると、ゆっくり歩いて近づいた。二人はまだ言い合っている。興奮し過ぎて、周りが見えていない様で、圭子は俺が横を通っても気が付かなかった。
「デートをドタキャンするぐらい大事な用って、何ッ!?」
「だからさっきから言ってんだろッ! バイトだって!」
いまは疎遠状態と言っても、圭子とは長い時間、共に過ごしてきた。だから見掛けが、ちょっとヤンチャっぽくて、口が悪くても、こんなに怒りを露わにすることは滅多にない優しい女の子だと知っている。
それだけに聞こえてきた内容も含め、大丈夫か心配になってしまう。それに……偏見になってしまうけど、男は金髪で、耳には複数のピアスをしていて、目つきが鋭いからキレたらヤバそうなタイプに見える。
喧嘩が発展して、もし男が手を出すような事があったら、どうしよう──俺が止めなきゃ……。
俺はドキドキしながら会話が聞こえるぐらい少し進んだところで自転車を止め、携帯を触りながら様子を見る事にした。
「嘘ッ! 前もそうやってドタキャンしたよね!? 私、知ってるんだよ、あの時、他の女と遊んでたのッ!!」
「な──それは……」
「それは!? それは何!? 誰だったの、あの女?」
「それは──バイトの先輩だよ。とにかく今日は無理だから、じゃ!」
男はそう言って、逃げる様に去っていく。圭子はそれを追うことなく、見送りながら涙を腕で拭っていた。
俺は携帯をズボンにしまい、圭子にバレない様に直ぐに、その場を後にする──あぁ……自分の事ではないけれど……凄く悲しい気分だ。
男の様子からして男は黒……個人的にはあんな男、もう別れてしまった方が良いと思う。
でも──手作りクッキーを彼に焼いてあげる程、好きなんだから、そうはいかないんだろうな……複雑。
──何かしてあげられる事ないかな? 俺はそんな事を考えながら、自転車を走らせていた。
「俺ならバレないから、ちょっと付けてみるか?」
俺はそう呟きながら自転車を止め、男が歩いて行った方へと向ける。もし証拠が掴めたら何か役に立つかもしれない! と、自転車を夢中で走らせた。
──数分して俺は男に追いつく。いまは自転車から降りて、男の後ろをゆっくり歩いていた。
少しして男は腕時計をチラッとみて、コンビニの前で立ち止まる。待ち合わせでもしてるのか?
俺は自転車を止め、コンビニの中で様子を見る事にした──10分程して、綺麗な女性が男に手を振りながら、近づく。俺は慌てず、ゆっくりズボンから携帯を取り出すと、写真を撮ってから、コンビニを出た。
「
「ったく、行き成り会いたいなんて言うなよな。予定をキャンセルするの大変だったんだぞ」
「ごめーん。だってぇ、突然、バイト休んで良いよって電話が来たんだもん。だから智也に会いたくなっちゃってぇ」
女性はそう言って、智也と手を繋ぐ。智也は険しい顔を崩して笑みを零した。あざとい女だな……。
「まぁ……良いけどよ。じゃあ行こうか?」
「うん」
二人は手を繋いだまま、歩き始める──俺も自転車を押しながら、後ろを付いていく。
それにしても……仲が良いな。終始笑顔が絶えない。これでバイトの先輩と後輩ってだけの関係?
「──智也。来週の日曜日も私、休みなんだ。今度は遠出しようよ」
「それはお泊り付き?」
「もう! 智也はエッチだなぁ。そう……だよ」
「えへへ、そいつは楽しみだな」
「決定ね! じゃあ朝8時、駅前で待ってて」
「オーケー」
残念だけど確定だな。女は智也に彼女が居るって事を知っているか分からないけど、智也は確実に浮気をしている。
一途な圭子の気持ちを踏み躙る様な事をしやがって……ぜってぇに許せねぇ!!! 怒りが沸々と沸いてきて、今すぐにでも智也の肩を掴んで文句を言ってやりたい気分だ。
だけど、これは本人たちの問題……圭子がどうしたいかが重要だ。でもどうやってこれを伝える? ストレートに言って良いものなのか? 何か……もっと何か良い方法は無いか?
俺はグルグルと頭を悩ませながら、その場を離れた──。
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