第12話 モヤモヤ
それから俺達はグッと仲良くなり、一緒に登下校したり、遊んだりと、友達以上の日々を送っていた。今日も一緒に帰りたくて、俺は星恵さんの机と向かう──。
「星恵さん」と、俺が星恵さんの後ろから声を掛けると、丁度、正面から来ていたクラスメイトの高橋さんも星恵さんに声を掛けようと思っていた様で口を開いていた。
それに気づかなかった星恵さんは、俺の方へと体を向ける。
「あら、光輝君。今日も一緒に帰る?」
「あ。あぁ……」
「どうしたの?」
俺の歯切れが悪かったからか、星恵ちゃんは疑問に思ったようで首を傾げる。その頃にはもう、高橋さんは話をするのを諦めて、その場を去っていた。
「いや、何でもない」
「そう。じゃあ帰ろう!」
「うん」
星恵さんは通学鞄を持つと、立ち上がり、出入り口に向かって歩き出す。俺も合わせて歩き出した。
高橋さん、何を話したかったんだろ? 気のせいかプイっと俺達に背を向けて、怒っている様にも見えた。仕方ないとはいえ、何だか悪いことしたような気分だ。
※※※
次の日の朝。一人で登校すると、下駄箱で靴を履き替えている高橋さんを見掛けた。
普段は声を掛ける事もないが、昨日のことが気になり、俺は靴を履き替えながら「おはよう」と挨拶をしてみる。
高橋さんはポニーテールの横髪を耳に掛けると「おはよ……」と素っ気なく返事をして、行ってしまった。
昨日のこと、やっぱり怒ってる? たった一回、星恵さんに話しかけるのを邪魔しちゃっただけなのに? 分からねぇ……。
俺はモヤモヤを抱えながら、教室へと向かった──教室に入ると、友達に挨拶をしながら、席に着く。
目線の先に丁度、高橋さんがクラスメイトの男子と話していて、様子を見てみる──目が切れ長で、ちょっと怖い所もあるけど、クラスメイトに見せている笑顔は、普通に可愛い。
笑いながら男子の背中をバンバンと叩く仕草は、さすが体育会系と思わすぐらい気さくの様に見える。
あんな風にしてるのは、あの男子だけなのか? ──いや違う。いま思い出したけど高橋さん、前に俺にも同じように接してくれた事があった。じゃあ最近、俺が嫌われる様な事をしたのかな……やべぇ、まったく思い当たる事が無いぞ?
うーん……と、頭を悩ませていると、チャイムが鳴る。まぁ、良いか……様子を見てれば後で何か分かるかもしれない。俺はそう思い、授業の準備を始めた。
※※※
月日が流れ、2月を迎える。明日はいよいよバレンタインデー……期待に胸を膨らませながら、自室のベッドの上で携帯をみていると、星子さんからメールが届く。メールには『明日の放課後、5時頃に自分の席に行ってみると吉!』と書かれていた。
俺は込み上げる感情を抑えきれず「よっしゃぁ!」と、声を出し、ガッツポーズをする。
正直、何回もバレンタインデーに期待していた事はあった。でも……こんなにも胸が高鳴ったことは無い!
明日は、誕生日みたいな事が起こらないと良いけど……。
※※※
放課後になり、待ち切れなかった俺は5時ちょっと前に教室に着く。クラスメイトは誰もおらず、教室内はシーン……と静まり返っていた。
俺はとりあえず、自分の席に向かい、座った──どうも落ち着かない。俺は制服のズボンから携帯を取り出し、ゲームをしながら時間つぶし事にした。
──おかしいな……5時はもう過ぎて、30分になろうとしている。何か別の用事でも出来たのかな?
「──あ! もしかして……」
俺は机の中に手を入れ、チョコが無いかガサゴソと漁ってみる──すると、机の奥の方に筆箱とは違う何かが当たった。取り出してみると──水色の包み紙でラッピングされた板チョコぐらいの箱が出て来た。
「何だ。もう来ていたのか……」
でも、誰からだろ? メッセージカードがあるかもしれないと、俺は丁寧に包み紙についたセロハンテープを剥がしていく──。
残念ながら、箱の中にはメッセージカードは入っていなかったけど、チョコがブラックバスの形をしていて、直ぐに星恵さんだと分かった。
食べるのが勿体ないぐらい良く出来ているけど、手作りなのかな? だとしたら、凄く器用だ。
ふと廊下の方へ視線を向けると、星恵さんが廊下から教室の中を覗き込んでいるのが目に入る。星恵さんは俺の視線に気付いた様で、慌てて顔を引っ込めた。
ふふ、様子を見に来ていたのか。家に帰ってから大事に食べようと、箱にチョコを戻そうとした時、携帯にメールが届く。
え? まさかこのタイミングで? 驚きながらも星子さんのメールを開いてみると、そこには『バレンタインのチョコと貰えたら、その場で食べて感想を言ってあげると吉!』と書かれていた。
もしかして星恵さん、まだ廊下に居るのか? これじゃまるで、星子=星恵と言っている様なもんじゃないか……まぁ、これも作戦のうちなのかもしれないし、黙って従ってみるか。
「さーて……凄く良く出来た魚の形のチョコだから勿体ないと思うけど、食べてみようかな」と、俺は少し大きめに独り言を言う。
チョコを一口食べると「うーん、美味しい! こんなに美味しいチョコは初めてだ」と言って、席を立った。
ちゃんと伝わったかな? と、心配しながら、出入り口から廊下が少し見える位置に移動し、様子を見る──少しして、携帯を胸の前で抱き締めながら、嬉しそうな顔を浮かべて通っていく星恵さんの姿が見えた。
どうやら互い、満足のいくバレンタインデーを過ごせた様だ。
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