第14話 逆だよね……?
「あ、あのこれ……足とか出てるんだけど……めっちゃ恥ずかしいんだけど……?」
俺は自分のスカートのすそを抑えながらショッピングモールを歩く。
「そうですか? 私たちはいっつもそのくらいのスカートで学校行ってますけどね」
「そう考えるとすげえな……JK……」
彼女である
しかも手をつないで一緒に歩いている歌音は、俺以上にイケメンの男だ。
なんだか恥ずかしくてドキドキしてるのか、イケメンと手をつないでいるからドキドキしているのかわからんな。
妙な気分になってくる……。
いや、いやいや俺にそんな気は決してない。
相手が歌音だからドキドキしてるだけだ……。
男装した
「あ、ほら
「
奇妙な呼び方をされて、俺は上ずった声で反応してしまう。
こんな格好をしているから、一応声だけでも女っぽくしようとしているのだが、それが余計に変な気分にさせる。
歌音のほうも、さすがは声優というか、どこからどう聞いてもイケメンの声にしかきこえない。
「だって、その恰好で
「うん、ていうかこの
「まあまあ、私……いや、僕のことは歌音くんとでも呼んでください」
「えー……じゃあ、歌音くん」
「キャー……!」
「えぇ……」
そんな男装女装夫婦漫才を繰り広げながら、俺たちはショッピングモールを練り歩いた。
正直、最初はどうかと思ったけど、こういうデートもありかもしれない。
俺たちのような特殊な境遇だからこそありえた、特殊なデート。俺たちだけのデートだ。
他のカップルじゃできないような、特別な思い出になると考えれば、案外悪くないのかもしれない。
そんな感じで、あとは映画を見たりなんかして、俺たちは初の外出デートを満喫した。
「ふぅ、映画おもしろかったな」
「感動しましたね!」
映画館を出て、交代でトイレに行く。
もちろん、トイレは男女兼用のを使う。
俺が一人で待っていると――。
どこからともなくチンピラ風の男どもが現れて、俺に声をかけてきた。
まさかとは思うが……嫌な予感がする……。
「ねえお嬢ちゃん。一人かい? 俺たちと遊ばなーい?」
「えぇ……」
まさか長年生きてきて、男にナンパされることがあるなんて思いもしなかった。
これまでいろんな業界で、いろんな経験をしてきた俺だけど、これは初めてだ……。
「あの……困ります……」
気がつけば、俺はそんなテンプレセリフを口にしていた。
でも、実際かなり困るなこれ……。
ナンパされる女の子の気持ちがわかる……。
正直まったく興味ないのにこれは鬱陶しいだけだな……。
しかも、男だとバレたりしたら余計に厄介なことになりそうだ。
ここはなんとか何事もなく切り抜けたいところだが……。
「そんなこと言わずにさぁ!」
「や、やめてください……!」
男たちは俺の腕を無理やりひっぱろうとしてくる。
しかしやっぱり俺のほうが力が強いから、びくともしないけどな。
「なんだこの子、けっこう力強いぞ!」
そうこうしているうちに、歌音が戻ってきたようで。
俺たちを見つけた歌音は、男たちに向かっていった。
「おい! 俺の女になにをしてるんだ?」
さすがは声優の歌音、とてもドスのきいたイケメン声で、男たちを脅す。
「な、なんだてめえ! この子の彼氏か? ひょろくて弱そうな兄ちゃんだなぁ! やっちまえ!」
男たちは歌音に向かって、こぶしを振り上げる。
こいつら……女に手を上げるのか!?
別に俺は男女差別主義者ではないが、それでも女に手を上げるのは許せん。
って、今の歌音はどこからどうみても男だ……!
ここは俺が男だとバレてもいいから、歌音を助けなきゃ。
そう思った矢先だ。
「遅い……!」
「ぐぇ……!?」
殴られて宙を舞っていたのは、歌音ではなく、男たちのほうだった。
「えぇ……? 俺のカノジョ……強すぎぃ……?」
まさかまさかの、なんと歌音は男たちを一瞬でやっつけてしまったのだった。
「くそぉ……意外と強かったぜあの兄ちゃん。逃げろ! くそ! 覚えてろよ!」
「ふぅ……」
捨て台詞を吐いて逃げる男たち。
俺は歌音に助けられたのか……?
ってか、こいつ本当に俺のカノジョ? 彼氏じゃなくて?
「あの……歌音くん。ありがとう……」
「ケガはなかったかい? お嬢さん」
「う……」
不覚にも、俺はドキッとしてしまった。
そんなイケメンフェイスでイケメンボイスで、今のイケメンムーブはずるい。
いや、決して俺は男にドキッときたわけじゃないからな。
歌音の意外な一面をみてドキッとしただけだから……。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「そうですね。また
「もうその呼び方やめてくれ……」
俺たちは、一風変わったデートを楽しんだのであった。
てか、普通これ逆だよね……?
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