第13話 男装デート


望都もとくん、デートしましょう』


 休日、俺のもとへ歌音からそんなメッセージが届いた。

 もちろん俺は二つ返事で承諾。

 だが、俺たちが外でデートをするのはかなりリスキーだ。

 あの美咲歌音が、学校ならまだしも、ショッピングモールなんかで男と歩いていたらどうなる?

 普段の美咲は結構地味な恰好で変装しているようだが、それでも心配だ。

 この前俺の家に歌音がやってきたのは、急な事態イレギュラーだったし、今後長く付き合いを平穏に続けていくなら、なるべく気を付けなければならない。

 それに今は事情が違っている。

 歌音は俺のアニメのヒロイン声優で、俺は原作者なのだ。

 単に美咲みさき歌音に彼氏ができただけなら、それほど叩かれはしないだろう。

 まあ、悲しむファンは多いだろうが……。

 ただ相手がアニメの原作者だと知れれば、大炎上間違いなしだ。それに、俺が困る……。

 俺は素直にその懸念を伝える。


『大丈夫なのか? その、週刊誌とか』

『大丈夫です! 私に考えがあります』


 歌音は策があると言い、俺をある場所に呼び出した。

 俺は言われた通りの場所へ行く。

 そこは高級マンションの一室だった。


「あの……歌音、ここは……?」

「ここは、私の家です」

「はぁ……!?!?」


 いきなり俺は家に呼び出されたんだけど、どういうこと!?


「だ、大丈夫なのか……? 自宅に呼ぶとか、デートよりリスク高そうな気がするんだが……」

「ここは大丈夫です。カモフラージュ用の自宅が別にあるので、こっちは絶対に・・・バレません。いろいろ、根回しはしてあるので」

「はぁ。……?」


 絶対にバレないとまで言い切るのか……。

 どういうことなのだろうか。

 まあ、美咲みさき歌音ほどのアイドルともなると、事務所のサポートも手厚いのだろうな。

 そういえば来るときに黒づくめの警備員とかもいたし、特殊な芸能人用のマンションなんだろう。


「そんなことより、はやく上がってください」

「あ、うん。お邪魔します」


 女の子の家に上がるなんて、いつ以来だろうか。

 しかもあの美咲みさき歌音の自宅だ。

 俺以外の人間が上がることを許されない、いわば聖域だ。

 中に入ると、とってもいい香りがした。

 きちんと片付けられていて、生活感もほどほどにあり。

 まさに理想的なアイドルらしい部屋だ。


「それで、俺を家に呼び出してなにをする気なんだ?」

「ちょっと待っててくださいね」


 歌音は俺をソファに座らせると、隣の部屋に消えた。

 そしてしばらくしてから現れて、


「じゃーん、これです!」

「な……!? か、歌音さん……!?」


 そこにいたのは、見るも美しい絶世の美男子・・だった。


「男装……!? ってこと……!?」

「そうです! これなら、外でデートしてても大丈夫ですよね!」

「いやこれはこれでかなり目立ちそうだぞ……」


 歌音の男装は、マジで男の俺から見てもどうかしてしまいそうなくらい、美しい美男子だった。

 まああれだけ可愛い美咲みさき歌音なんだ、男装したらイケメンにもなるか……。


「まあこれなら、男友達同士って感じで見られるか……? ちょっと俺が釣り合ってない気もするけど……」


 俺も精いっぱい身だしなみを整えるが、さすがにここまでのイケメンにはなれないぞ……?

 すると歌音は、ちがうちがうと首を横に振った。


「それじゃあ手とか繋げないじゃないですか! まあ、BL的なのも嫌いではありませんが……」

「は……?」

「やっぱり、望都もとくんの可愛いところも見てみたいです」

「おいおい……」


 まさかとは思ったが、歌音が奥から取り出したのは、フリフリのかわいらしい衣装だった。

 あれか、地雷系女子とかっていう感じの子が着てそうな、そんな服。

 あとウィッグ。それから化粧品。


「まさかじゃないが、それを俺に……?」

「当然です。望都もとくんにも変装してもらいます」

「お、俺はいいよ……」

「だめです。念には念を入れよですよ? 望都もとくんも変装していたほうが、より原作者と声優だってバレないですよね?」

「っく……たしかにそうだ……」


 俺は、かわいらしい女の子に改造されてしまった。

 歌音は化粧も上手で、俺はあっという間に地雷系女子になった。

 自分で鏡をみても、なかなか可愛い……っていうか、ほんとにすごいなこれ……。

 これなら確かに、一周回って普通のカップルに見えるのか……?


「うう……恥ずかしい……」

「ふふ……望都もとくん、とっても可愛いですよ? さすがは私のカノジョです」

「いや、彼女は君だからね……?」

「うふふ……私が彼女だって……。望都くん大胆ですね」

「えぇ……」


 てなわけで、俺たちは一風変わったデートをすることになってしまったのだった。

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