第11話 武力制圧


 翌日、俺が学校へ行くと、昼休みに根岸から呼び出しを受けた。

 きっとまだ美咲を俺がとったことを根に持っているのだろう。

 今までは根岸の圧政に屈していた俺だったが、今の俺は違う。

 俺は美咲歌音と幸せな学校生活を送るために、その障害となるものは排除すると決めたのだ。


「なんのようだ……?」


 根岸に指定された校舎裏へ、俺は一人で出向く。

 なにを企んでいるかは知らないが、もうこれ以上の面倒はごめんだ。

 ここでけりをつけておきたい。


「まったく、本当にひとりでやってくるとは馬鹿なやつだな。夕上ぃ……! お前は俺を怒らせた! なにごともなく美咲と幸せな学校生活を送れると思っていたら大間違いだ。美咲が俺のものにならないなら、その幸せをぶち壊す!」


 情けないやつだな……俺は端的にそう思った。

 美咲にふられた腹いせに、俺をぼこぼこにしようというわけか。

 そういえばこの前俺の実力は見せたはずなんだがな……?

 どうやら馬鹿なこいつにはあれでは足りなかったようだ。


「根岸、お前が俺に勝てるとでも思ってるのか? この前廊下でやりあったときに、わかったと思っていたんだがな……」


 俺はあきれて、めんどくさそうにため息をつく。

 そのしぐさに、根岸は怒りをあらわにする。


「てめぇ。陰キャのくせに美咲と付き合えたからって調子にのるんじゃねえよ! おいお前たち、出てこい!」


 根岸が合図をすると、ものかげから同じような風貌の男子生徒たちがぞろぞろと現れた。

 全員制服を着崩していて、いかにもな不良生徒といった感じだ。

 中には根岸とよくつるんでいるクラスメイトもいた。


「そうか……一人じゃ俺に勝てないと思って仲間を呼んだわけか……。どこまでも情けない男だな」


「なんだとぉ……!? この状況でいつまでも気取ってんじゃねえよ!」


 怒りが爆発した根岸が、真っ先に俺に殴りかかってきた。


 ――スカっ!


 しかし根岸のこぶしは宙を空振り。

 俺はしゃがんで華麗に避けた。


「この……!」


「ふん……!」


 そしてそのまま、俺は根岸の脚をひっかけて――。


 ――ズドーン!


 根岸は宙を舞ってしりもちをついた。


「なんだ……!?」


「動きがまるで素人だな……」


 正直、こんな不良何人相手だろうが、俺には関係ない。

 俺は神作家である前に、武術の達人でもあった。

 というのも、うちの祖父が道場を経営しているのだ。

 祖父はありとあらゆる古今東西の武術に精通していて、俺は幼少のころにそれを叩き込まれた。

 そういった戦闘の知識は、俺が小説を書くときにも、戦闘描写で役に立っている。


「お前ら! 全員でこいつをつぶせ……!」


「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 根岸含め、不良生徒たちが一斉に襲い掛かってくる。

 だが全員まるで素人の動きだ。

 何人かボクシング経験者もいるようだが、どれもこれも付け焼刃の未熟なものでしかない。

 俺は祖父の修行で、100人と戦ったりしたこともある。

 正直、世界がゾンビまみれになったり、戦争になったりしても生き残れるだけの知恵と経験、それから技術が俺にはあった。


「ふん……!」


「うわ……!?」


 全員の攻撃を、うまくよけながら、的確に反撃をくらわせていく。


「くそ……! なんだこいつは……!?」


「おい根岸! 陰キャ一人ボコるだけじゃなかったのかよ!?」


「こいつ陰キャのくせにめちゃめちゃつええぞ!」


 不良生徒たちをほんろうする俺。

 あっという間に全員、俺を警戒して距離をとりはじめた。

 俺が倒したのはまだ5人ほどなのだけれど……。

 見た目のわりに、どいつもこいつも度胸のないやつばかりだ。


「どうした? もう終わりか?」


「てめぇ……!」


 根岸はぐぎぎと歯を食いしばる。

 そうこうしているうちに、騒ぎを聞きつけてきたのか、生徒指導の鬼教師が現れた。


「おいお前たち! なにをしてるんだ……!」


「やべぇ! センコウだ! 逃げろ!」


 まるで蜘蛛の子を散らすように、逃げていく不良たち。

 どこまでも情けないやつらだ……。


「大丈夫か……きみ」


 先生が俺のもとまで駆け寄ってくるが、俺は傷一つついていない。

 それどころか、俺の足元には気絶した5人の生徒。


「なにがあったんだ……」


「大丈夫ですよ。俺はなにもされてません」


「し、しかし……」


「こいつらは仲間われしただけです」


「そ、そうなのか……?」


 先生もまさか俺が倒したとは思わないようだ。

 まあ俺はかなりの筋肉があるとはいえ、見た目にも気をつかっているからな。

 服を着ていればまず俺の筋肉はそうそうバレない。

 筋肉とは量ではなく質なのだ。

 それに、そんなものなくても技術があればこうやっていくらでも相手をほんろうできる。

 特に相手が素人の高校生だと、俺からすれば赤子の手をひねるくらいのものだ。

 中学のころ、実際に戦場を経験したこともある俺からすればな……。


「じゃあ俺はこれで……」


「あ、ああ……気を付けるんだぞ」


 先生はそう言うと、気絶した生徒たちを運んで行った。

 教室に戻ると、根岸が相当恨めしそうな目で俺をにらんできていた。


「はぁ……余計に面倒なことになったな……」


 これは根岸の動向に注意しておいたほうがいいだろう。

 ああいうやつはなにをしでかすかわからないからな。

 変な恨みを買ってしまった……。

 俺は授業中、次なる対策を練るのだった。

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