第6話 新キャラ
ある日の放課後だ、俺の小説の担当編集から、電話がかかってきた。
担当さん――カエデさんという年上のお姉さんだ。
いつもスーツがびしっとカッコいい、出来る社会人って感じの人だ。
「先生、ちょっと今いいですか?」
「はい、いいですよ」
「それが……『よじはん』のアニメの件なんですけどね」
「はい……」
「四畳半から始まる異世界神話」……俺の代表作だ。
今も絶賛アニメ放送中で、次の次のクールから、分割で第2クール目も始まる予定だ。
だが、こんな時期になんの電話だろうか……。
まさか、視聴率が悪くて打ち切り……!?
いやいや、まさかな。
「その……第二クール目から始まる章で、出てくる新しいヒロインいるじゃないですか……?」
「ああ、いますね……黒髪の」
ヒロインの一人、アカネという名の、剣聖キャラだ。
主人公とは違って、真面目で凛々しい、優等生タイプ。
「それなんですけどね……声優の
「えぇ……!?」
こんな大事な時期だっていうのに……!?
「まだ詳しいことは言えないんですけどね……。近いうちに、週刊誌で記事が……」
「あらら……」
まあそのへんは大人の世界だ。
俺には想像もつかない……。
だが、それならヒロイン役は誰になるんだ……!?
「それがですねぇ……新しい声優を事務所の方で建て替えるそうなんですけど……」
「そうなんですか……まあ、俺は構いませんけど」
正直、最上沙良さんといえば、今かなり人気の人だ。
だからこそ、ヒロイン役としてかなり期待していたんだがな……。
たしか、主題歌も歌ってもらうはずだったはずだ。
売り上げにもかなり貢献してくれるはずだったんだ。
「それで……代わりの人は誰なんです……?」
俺は、訊いてみた。
「ああ……それが、
「は…………?」
俺は、言葉を失った。
え……マジか……?
それって、俺の彼女なんですけど……?
などと、言えるはずもなく……。
「あの……先生……? 聞いてます?」
と、電話口でカエデさんが慌てている。
俺は、どう応えるべきか迷っていた……。
というか、放心状態。
「もう……! 先生……! なんなんですか……!? もういいです! あとでお家にいきます!」
「あ、ちょっと……!」
カエデさんが何やら叫んだあと、電話は切れてしまった。
しまった、俺の沈黙が長すぎた……。
最後、カエデさんがなんと言っていたのか、よくわからなかったな……。
俺は電話を耳から下げていたから、あまり聞き取れなかった。
まあ、なんかもういいです、とかって言ってた感じだったな。
あとで謝っておこう……。
とりあえず、俺は家に帰ることにした――。
◇
家に帰り、俺はまっさきに美咲に電話した。
「おい
「え……ど、どういうことって、どういうことなのかな……?
「え……? お前、何も聞いてないの……?」
「……?」
どうやら、美咲は本当になにも知らないようだ。
まだ事務所が勝手に決めただけで、美咲には知らされていないということか。
確定したことではないから、まだ本人には知らせられないということかな。
まあ、そういうことはリスクや情報管理が大事なこの業界では、よくあることだ。
きっと俺への確認がとれてから、美咲に話すつもりなのだろう。
事務所がそういう判断をしているのなら、まあ俺が勝手に話すわけにもいかないな。
美咲、きっと知ったら驚くだろうな……。
だって、俺の作品の大ファンだからな、あいつ……。
とくに、アカネはお気に入りのキャラだとも言っていたな。
そういえば、どことなく美咲に似ているような気もする。
「あ……いや、なんでもないんだ。知らないなら、いい。じゃあな」
「あ……! ちょっと!
美咲にはいらん心配をかけてしまったかもな。
だがまあ、そのうち忘れるだろう……。
俺は、どっと疲れが湧いて来て、そのまま寝落ちしてしまった――。
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