第5話 抵抗
翌日、学校へ行くとすぐさま
当然だ、根岸の想い人である美咲を、俺がとったと思っているんだろうから。
「おい、
「なにがだ……?」
「ふざけんな! 美咲さんがお前なんかと付き合うわけねえだろ! 俺がフラれたってのに!」
「……それは、お前に魅力がないからなんじゃないか?」
誰も根岸のような単細胞生物とは付き合いたくないだろう。
実際、いつも一緒にいる
「……んだとてめぇ……!」
根岸は、そう言って俺の首元を掴んできた。
はぁ……まったく、面倒事はごめんだ。
そう、今までの俺なら、こんなふうに根岸に言い返したりはしなかった。
スクールカーストというのは複雑で、教室の中で居場所を得るには、それなりの努力がいる。
だが、普段の仕事で疲れている俺にとって、そんなことは興味の範疇外だった。
なにより、コスパが悪い。
同級生のバカ共に付き合って、スクールカーストごっこを演じるには、俺は少し達観しすぎていたのだ。
だが、それも今日で終わり。
今日からは、俺と美咲が幸せに学生生活をエンジョイするために、俺は抵抗する……!
「放せよ……!」
俺は、初めて根岸に抵抗してみせた。
根岸は、驚いた顔で俺を睨みつけた。
サンドバックが、初めて牙を剥いたのだ。
「てめえ……美咲さんにOKされたからって調子にのんじゃねえよ!」
根岸は、俺の顔に、パンチを喰らわせようと殴りかかる……!
しかし、俺はそれを簡単に受け止めた。
「な……!?」
「俺のことを非力だと思っていたようだが……俺は今まで抵抗をしてこなかっただけで、決してお前よりは弱いわけではないぞ……?」
俺は、ドスの効いた声で根岸を威嚇する。
本来、俺のような人間はこんな茶番に付き合ってやらないのだが……。
根岸のような単純な人間には、こういう単純な威嚇が一番効くのだ。
動物的なヤツには、こちらもそういう対応で返すまでだ。
「くそ……! てめぇ! 離せ!」
俺は根岸の握りこぶしを、力いっぱい握り返していた。
どうやら握力では、俺のほうが上らしい。
これでも、日々の激務に耐えうるように、身体はちゃんと鍛えている。
教室前の廊下でそんなことをしていた俺たち。
その後ろから、聞き覚えのある声がする。
「
その声の主は、
とうぜん、根岸も俺を放す。
俺も、根岸の拳を解放した。
「
根岸は、美咲を視認するやいなや、まるでいいとこのお坊ちゃんのように、しおらしくなった。
そういえばこいつは、美咲の見ている前では決して虐めをしない奴だった……。
まあ、その程度の小者というわけだ。
「やあおはよう、
俺は恋人らしく、美咲に返事をする。
そっと肩に手を回し、いっしょに教室へと入る。
「じゃあな、根岸」
「っく……てめぇ……」
これでしばらくは、手を出してこないだろう。
あいつも美咲にフラれたからといって、美咲に嫌われたくはないだろうからな。
それに、俺だってもうただでやられてやらない。
これからは、立場が逆転するんだ。
俺はこの教室を……スクールカーストを、攻略する……!
今まで、さまざまな分野で成功をおさめてきた俺からすれば、高校生のガキどもを相手に権力争いをするなんてのは、簡単なことだ。
まあ、おままごとレベルの争いだ。
それでも今までは、コスパも悪いし、目立ちたくないしで、避けてきた戦いだ。
だが、今の俺はもう違う。
美咲との幸せな学生生活のために、せいぜい根岸にはやり返させてもらうさ……。
そして俺の予想どおり、根岸はその後大人しくなった。
まあ、美咲にフラれた腹いせで、俺を攻撃してきたら、そんなのさすがにダサすぎるもんな。
その点は、彼らもわかっているようだ。
それに奴らのような単純生物は、力で負けると、大人しくなるものだ。
まったく、単純な奴らは話が早くてたすかる……。
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