第30話 Sideリリィ
「チッ。な、なによ……。うるさいわねえ……。どんだけ騒いでんのよ……」
深い睡眠を邪魔されたように、眉間にシワを寄せてベッドから体を起こすのは、気の強いリリィである。
「って、ここどこよ……」
約束されたツッコミ。
暗すぎる室内だが、暗視ができる彼女には問題なく見える。今までに見たことがない場所。
心当たりのない場所で目を覚ましても余裕があるのは、自身の強さに自身がある冒険者らしいことだろう。
(記憶があるのはあのクソ店主のところだから、そこで寝ちゃったのね。……じゃあここはホントどこよ)
アルコールが全て抜けている分、何事もなく思い出すことができる。
そして、イザカヤとは似ても似つかない部屋なのは間違いない。
「って、マジで隣うるさいわね……。馬鹿騒ぎするなら昼にしなさいよ……」
壁時計を見れば、朝日も登っていない4時。
現在の場所がわからず、中途半端に起こされてイライラが積もる。
あのクソ店主を思い出したせいで虫の居所も悪い。
「はあ。ホント一向に止まないじゃない!」
隣人の雑音のせいで考えがまとまらない。もう我慢の限界だった。
ベッドから床に足をつけ、雑音が漏れるその壁を『ドン!』と叩こうとした瞬間だった。
——ギシギシ。
「……は?」
なにかが軋む音がリズム良く聞こえる。
——はあ……。はあ……。
——んっ……あ……やっ……〜〜っ……。
——ぁ……ぁ……んんっ……。
「……ちょ」
男の息が一つ。女性の艶かしい声が二つ耳に入ってくる。
振り上げていた拳は途端に止まり、プルプル震え出す。
今、隣の部屋でなにが行われているのかは予想するまでもない。
「いや、は? マジでなんなの……。いや、意味わかんないし……」
意味のわからない場所で寝かせられ、とんでもない声を聞かされ、目がぐるぐる回ると回るリリィ。
急激に頭が熱くなってくる。
「こ、こんなので起こされるとかマジで最悪……」
情事なのはわかる。3人で、周りのことなど気にせず自分勝手に盛り上がって。
こめかみに青筋が浮かぶリリィだが、内容が内容だけに文句が言えない。
「ホント……こんな時間まで
ブツブツと文句を言う。そして、落ち着かなくなり、チラチラその壁を見る。
そんな時間が何分続いただろうか。
リリィの耳は——壁についていた。
悪趣味なことだが、まだ22歳のリリィである。そのようなことには元々興味があること。
さらには憧れの人だって恋人を作って、楽しい日常を送っていたのだ。
昨日を境に、その関心は高まっていて——隣からはいろいろな音、声が聞こえる。
深いキスをして興奮を高めているような音。
なにかを擦り合わせているような生々しい音。
それとは別に大きな音を出しているのは、喘ぎ声。
「ひぁっ、やあぁ……。くぅうぅぅん……」
身をよじって快感を感じているような嬌声。
「あっ、あっ……。んんンっ、ご、ごめんなさいっ、ま、またイっちゃ……んんっ〜!!」
片方は何度も何度も容赦なく責められているようで——。
(は?)
リリィは目を見開く。
普段より何倍も声のトーンが高くなっているが、聞き覚えがあったのだ。
『ごめんなさい』の声に聞き覚えを。
(ちょ……ま、待って……)
リリィの鼓動はより大きくなる。息が苦しいほどの興奮に襲われる。
動揺するも、耳は離れない。
今、その奥で誰と誰と誰が盛っているのか……それを悟り、すぐ証明される。
『レ、レンさんっ、す、少し待っ……お願いだから……ぁんン〜ッ!』
今まで一度も聞いたこともない憧れの人の特別な弱々しい声。
今まで弱音を聞いたこともなく、いつだって最前線で戦い、時には周りのサポートに勤め、負け知らずで、周りからも慕われている憧れの人が、今ベッドの上で——クソ店主に休憩も取らせてもらえず、鬼畜に責められ続けている。
『〜んっ、あっ。テ、テトちゃん。そ、そこはダメッ……』
『サンドラお姉さんだけ、いっぱいされてずるい……』
そして、嫉妬したように可愛らしい狐人族の女の子にも責められて……。
「なっ、なによ……。そ、そんな声なんか出して……」
リリィは今までにない興奮に襲われていた。
行為中の音。艶かしい声。今どのような状況で行われているのか。
その全てが壁一枚で伝わってくるのだから。
ただ聞いているだけで下腹部が濡れ始め……無意識にそこに手を伸ばすリリィがいる。
「な、なんで……あたしが、こんなこと……」
頭の中でありえない想像してしまう。自分もそこに混ざり、責められてしまうところを。
生理的に無理だが、あのクソ店主に犯されてしまうところを……。
「はぁっ……。んっ、くぅ、んっ……」
隣からは本当に気持ちよさそうな声が聞こえてくる。憧れの人が快楽に溺れている声が聞こえてくる。
(ずるい、ずるい、ずるい……)
ぴちゃぴゃという音が指先から伝わり、気持ちも昂っていく。
その動きをどんどん激しくして——。
「——あんぅう!」
足先をピンと伸ばしながら絶頂するリリィは、隣の喘ぎ声に自分の声を混ぜるのだった。
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