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 発見した拳銃のことを警察に報告すると、さっそく取り調べが始まった。ウェントワースは拳銃を発見した当時の状況と犯行時刻に何をしていたかなど、なるべく詳しく説明した。

 トーマス・ポッツ警部はウェントワースの証言を聞き終わると、待っていたかのように話し始めた。

 

「ふむ……ところでハード=ウッド君。これを君に見てもらいたくてね」


 もみあげまで繋がる口髭を撫でながら、警部が懐から小さな小瓶を取り出した。


「これを君は知っているね?」


「それは……!」


 それは小さな薬瓶だった。満タンにあったはずの中身は空で、剥がれかけたラベルに色の薄くなった印字がかろうじて読めるレベルだったが、ウェントワースは即座に理解した。それはウェントワースがよく愛飲している睡眠薬だった。


「実はこれが被害者のジョン・ロウの自室から見つかってね。君の指紋がついていた」


「確かに……それは僕の物です。でも、それは彼にその……盗られた物で」


「ほう、盗まれたと?」


「はい……半月程前のことです」


 言いながらウェントワースは汗が浮き出るのを止められなかった。ただでさえ疑わしいのに火に油を注いでいる状態に思えたからだ。


「君は被害者である彼に、いじめを受けていたそうだね?」


「まあ……そういうこともありました」


「具体的にどのようないじめを受けていたか、言えるかな」


「事件には関係の無いことです」


 質問に答えないウェントワースの代わりに、ポッツ警部は調査手帳を捲るために指をなめた。


「暴行に暴言。毒入りクッキーを食べさせようとしたり、ナイフを突きつけられたこともあったそうじゃないか。酷いことをするもんだ、なあ?」


「……」


 調べはついているとでも言いたげにほくそ笑む警部の顔にかつてのジョン・ロウの面影が重なる。

 実業家の息子でプレイボーイ。秀才であり、スポーツ万能。人気者だった彼に当時の自分は手も足も出なかった。挙げ句の果てに全く関係のない生徒に八つ当たりをし、怪我もさせた。

 部屋に拳銃があった時、自分が彼をこの手で殺してしまったのだろうかと錯覚した。だがそうではないという確信があった。それを教えてくれた友人のために無実を証明しなくてはならない。


「警部は僕を疑っているのでしょうが、僕は犯人ではありません! なぜならその銃は特殊な形状をしていて僕は使い方を知らなかった。仮に撃てと言われても撃つことは出来なかったでしょう」


 その時、部屋にノックの音が響いた。返事を待たずに開かれたドアから金髪の青年が現れた。友人のレナード・リーヴスだ。彼は涼やかな顔で警部の前に立つとこう言い放った。


「警部。私はこの事件の犯人は、自室に凶器を置くような愚鈍な精神を持ち合わせているとは思えません。ましてや自ら罪を告白する高潔さもありません。この犯人は、陰湿でずる賢く、狡猾で卑劣な行為も厭わない人物です。彼は犯人ではありません」


「レナード……」


 鼻の奥がつんと痛くなりながらウェントワースはレナードを見つめ返した。

 ポッツ警部は獣のように唸りながら、しかしと続けた。


「証拠がないのだよ。彼が犯人ではないという証拠が」


「犯人だ、という証拠もないはずです。警部、もう一度ジョン・ロウについて洗い直す必要があると思いませんか? 犯人は彼だけが知っています」




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