3-2
ウェントワースの自室に移動するとレナードが口火を切った。
「状況を整理しよう。まず、君はいつ拳銃の存在に気が付いたんだ?」
「本当につい先程のことだ。朝に開かれた臨時集会が終わって、部屋に戻ってきて、掃除でもしようとベッドの下を覗いたんだ。時間にして正午を過ぎたあたりかな――ほら、これだよ」
ウェントワースはそれを律儀にも元あった場所に戻していたらしい。
徐にウェントワースはベッドの下から皺だらけの紙袋を取り出すと、中身をテーブルの上に落とした。
ごとん、と重厚な音を響かせながらそれが出てくる。無駄のない洗練されたデザイン。ニッケルプレートが鈍い輝きを放つリボルバー。多くの子供たちが在籍する学院にはとても似つかわしくない風貌のそれを手に取った。
レナードがにやりと笑う。
「レモン・スクイーザーか」
「レモン絞り器だって?」
突然出てきた関係のなさそうな語句に、ウェントワースの目が白黒する。
レナードはハンカチで実物を触らないようにしながら答えた。
「グリップを握り込まないと発射できないグリップセイフティが備わっていて、それがレモンを絞るようだからそう呼ばれている。正式名称は、S&W .32 セイフティ・ハンマーレス・リボルバーだ。バイスクル・ガンとも呼ばれ、その名の通り自転車に乗る際に、犬から身を守るために所持されることが多い銃だ」
「犬、ねえ……」
レナードはしげしげと拳銃を見つめる視線を遮るように机に置き直すと、ウェントワースに向き直った。
「それで、これからどうする。おとなしく拳銃を警察に引き渡すか?」
ウェントワースは逡巡しながら答えた。
「それしかない、だろうな。後に隠し立てしていたことがばれるのも厄介なことになりそうだ」
「――僕が危惧しているのは、君とジョンとの関係についてだ」
突然冷たいもので刺されたような感覚だった。
全身の筋肉が強張り、自分が今呼吸をしているのかどうかさえ不確かになる。
レナードは反応を窺うように目線を合わせた。
「ジョン・ロウは君をいじめていた人物だ。警察は殺人の動機ありと判断するだろう。そうすれば君が犯人と疑われることになる。それでも君はその証拠を提出するのか?」
レナードの抉るような視線に目を背けたくなるが、ウェントワースは必死に平静さを保ちながら言葉を紡いだ。
「……ああ。僕は真実が知りたい。協力してくれるか?」
真実を知りたいというのは心からの言葉だった。
レナードは一応納得したように、ふんと鼻を鳴らした。
「僕にできることなら何でもするつもりだよ。但し、君も動かなきゃいけない」
レナードは人差し指を突き付けながらこう言い放った。
「警察に情報を渡すだけでは無く、まだ公開されていない情報を取ってくるんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます