魔女の葬礼
小野 玉章
3-1
艶やかな芝に黒い人影が寝そべっている。黒いというのは比喩ではなく、その人物を的確に表す色であった。
イートン校伝統の燕尾服を着た青年レナード・リーヴスは、制服が皺になるのも構わず、初夏の爽やかな風を受けながらうとうとと微睡んでいた。するとそこに同じような燕尾服を着た青年が生垣の奥からひょこりと顔を出した。
「人が死んだのに、気持ちよく午睡とは。君ぐらいなものだ」
ふいに落ちてきた冷やかな声を受けて、レナードは落ちかけていた瞼を持ち上げた。
そこに現れたのは栗色の髪に長身、神経質そうな顔立ちをした青年ウェントワース・ハード=ウッドだった。
対して、レナードは出来るだけいつもの調子で応えた。
「何か悪いかな」
「悪くはないが、良くもないな」
ウェントワースは切りそろえられた美しい芝生に腰をおろすと沈鬱な様子で続けた。
「ジョンのことは……残念だった。犯人は未だに捕まっていないらしいな」
「ああ」
レナードは同意するように僅かに目を細めて、事件の概要をさらった。
――その事件が起きたのは今朝のことだった。
出勤途中の教員マシュー・ホプキンスが、ヘンリー6世の像に寄りかかるようにして倒れていたジョン・ロウを発見した。ジョンは胸部、腹部を銃で撃たれていて既に死亡しており、寝間着以外は何も身に着けていなかったという。死亡推定時刻は、深夜から未明にかけてで不審者の目撃情報は無く、凶器も見つかっていない。
そのおかげで授業は午前、午後全てキャンセルされ、学校関係者は外出禁止令及び待機命令が出されている。一部では帰宅を訴える保護者の声で溢れているという。
「どう思う?」
ウェントワースが問いかけるとレナードは肩を竦めて、
「どうもこうも、警察に任せるさ。学生が出来ることなんてたかが知れている」
それもそうだ、と納得しながらどこか浮かない顔でウェントワースは続ける。
「ではもし……僕が犯人だったら?」
「……何?」
レナードが意図を汲み取れずに問い返す。
「もし僕が犯人だったら、君はどうする?」
「本気で言っているのか」
冗談では済まされない発言にレナードが眉をひそめると、ウェントワースは観念したように立ち上がった。
「訊いてくれ、レナード! 僕の部屋から――拳銃が見つかった。恐らく事件の凶器になったものだと思う」
「何だって……」
呆然と見開くレナードの緑の瞳を、ウェントワースは懇願するような眼差しで見つめ返した。
レナードは漸く、目の前にいる友人が助けを求めてやってきたことを理解した。
先ほどより冷たくなった風が心身ともに冷やしていった。
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