第2話 猫
飼っていた猫が突然二足で歩きだして、それが猛烈に速かったから、私は驚いてソファに足を引っこめた。猫は変わらず部屋中を動き回っている。なにがしたいのか全然見当がつかなかったが、猫も同様らしかった。ただ歩いて、部屋の四隅を丁寧に踏んでいく。それが楽しいらしい。
私はじっとうかがいながら、ふと猫がずっと昔に死んでいたことを思い出した。大きくてふてぶてしい猫だったので、二十年くらい生きるだろうと決めつけていたが、病気で死んでしまった。いま目の前にいるのはその猫にちがいない。
猫は休むことなく動いて、だんだん、壁にぶつかるようになってきた。なにか聞こえると思うと、うめいている。
「あっあっあっ」
と顔じゅう前肢で撫でまわしている。私は呆然としたままどうしたのかと問いかけた。するとうめき声はすこしずつ引きのばされていき、室内にとどろくようになった。人と同じに口の形を動かしているので、これはと思うと、猫は
「おかあさん」
と喋りだした。
「おかあさん」
「おねえさん」
「おねえさん」
「おねえさん」
いまでは壁の一隅にうずくまって、そうくり返している。猫は懸命に叫びつづけたが、二人ともやってくる気配はなかった。そのうち尻尾がむくむくと膨らみはじめて、二つに裂けるなと思うと、猫は扉を破って駆けていった。
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