第8話 『さよなら』の翼


 魔王城の玉座前。

 俺の腕の中で目を閉じるエルを、そっと横たえた。


 エルの髪を撫でながら、その胸の十字架に掛けた概念魔法を発動させる。




魂魄保護魂への干渉を禁ず

生命共有一を以て二と為す




 そして、ディレイ時間差の概念魔法。

 発動条件は、俺の




封印の結界紋様を持つ者は此処へ

破魔の結界魔族は生きる事叶わず




 轟音と共に、天に噴き上がる光。

 魔王城が瓦解していく。


 黒い雲を突き破って、青い空が見えた。


 最後の概念魔法。

 桔梗の小刀をストレージから取り出す。


 ごめんな。


 最後に会った時、ただずっと泣いていた桔梗。

 父さん、母さん、佳奈姉さん、夢花。

 エル。

 ありがとう。


 俺と出逢ってくれて、ありがとう。







、笹倉芳人。盛邪必衰、栄枯盛衰の理をもって叛逆を宣言する!我、魔王となりし暁には、脆弱な人間へと堕ちるがいい、エルフェルナ!!』







” 下 ”







” 剋 ”







” 上 !!! ”







「お前を!よ!こ!せえええええええええ!!」






 

 握りしめた拳から、黒い紋様が浮かび上がった。

 いける!!


「いいっ?!てえ!!」


 脳天まで突き抜ける程の指先の痛みが、身体に伝わって暴れまくる。


「が、ああああああああああっ!!!」


(エル、お前!こんな痛みをずっと……!!!)




 紋様を吸い取り。

 絶叫する程の神の罰、痛みを受け。

 痛みによって魔力を回復し。

 紋様を吸い取る。




 死ぬほど痛い。

 涙が止まらない。


 やめてもいいか?


「とか!!言っ……ちゃってええええええええ!!やめるかよ!クソが!クソがあ!ガキが二人、泣いてんだ!晴れた空が、未来が、見たいってよぉ!一人分ぐらい!寄こしやがれやあああ!!!」


 体のほとんどが、燃えるように痛い。

 意識が途切れそうになっては、叫ぶ。


 紋様が消えていく、エルを見ながら。

 エルを、見ながら。

 

 叫ぶ。

 叫ぶ。

 叫ぶ。





「よっしゃあああああああ!!」





 痛みが、消えた。

 俺は背中から倒れこんで、青空を見る。


 結界の真上が、キラキラと光り始めた。

 無数の、破魔の光。

 俺が魔王となった、証。


 俺を貫け。

 魔王の俺を、な。

 人間のエルには、ダメージはないはずだ。


 神の定めたこの地では、俺の魔法によって魔族は生きられない。


 はは。

 エル……後は自分で、飛べるか?

 

 さよなら。

 大切な、人。

 


 


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