第7話 こんな、汚れた咎人だ
八日目。
存在を入れ替える、という概念を元にメニューの中のツリーを弄っていく。
適当にアビリティーツリーに似せて作ったが、文言を書き換えられるようにしている。
●
『助けて貰って悪いが、お前の望みの為に何で俺が詠唱覚えたりレベル上げたりしなきゃいけないんだ?』
賭けだった。
顔を歪ませる
エル封印後は桔梗が施してくれた結界で守っている。一時期、俺に干渉する気配があったが諦めたようだ。
桔梗、すっご。
概念魔法。
実際に使ってみると、大正解だった。
強力な魔法だろうが何だろうが、発動させる為の条件や効果をツリーで弄ればいいだけだ。
今は来たるべき時の為に、この作業に没頭している。
例えば。
この魔法の発動中は痛覚耐性なし、痛みは魔力に還元。
『宣言』によって魔法を明確にし、その意志を言霊に。代償として、能力と魔力全てをこの世界に譲渡する。
次々と文言を加える。
命はやらんぞ?使うから。
●
「芳人……」
フラリ、と横に座り込んだエル。
暖炉だけの光の中でも、その顔色は良くない。
「やっぱり回復しとくか? 俺なら……」
「いや、いい。……なあ、芳人」
「ん?」
「私は、お前に何も返してやれない。捨て置いてもいいのだぞ?こんなに……頬がこけて、
揺らめく瞳で俺を見上げ、頬を触ってくる。
「ムカついてるからな」
「……私が、か。すまない」
「違う」
エルに正面から向き直った。
「俺は呪ってた。自分を、運命を。だから消えたかった。消え失せたかったんだ。だが……お前の境遇を、お前の願いを聞いて気が変わった。好き勝手されて、利用されて。腹立たしくないか? 悲しくないか? 一泡くらい、吹かせてやりたいだろ?」
「芳人……」
「神だって、世界で生まれた命の一つ、間違いだってあるはずだ。エルを神に持ち上げといて放置、なんて勝手すぎる。……ま、俺の身勝手だ、気にすんな。俺は俺で願いを叶える」
「……」
ああ、やっちまった。飛んだ決め台詞を押し付けちまった。アビリティツリーに視線を戻そうとすると、無言でエルが立ち上がった。
「好き勝手言って悪かったな。具合悪くなったら言えよ?第一、その紋様は……ん?どし、た……おい!」
獣人化を解いて、銀髪と角を露わにしたエルがするり、するりと服を脱いでいく。
「な!何してんだ?!またラノベの影響か?服を着ろ!」
そうは言ったが、目が離せない。
一糸纏わぬ姿で辛うじて両手で上下を隠し、唇を噛み締めるエル。
まるで、美術館で至高の名作を見るような。
まるで、煌めく満天の星空を見上げるような。
「こんな身体を曝け出すのは……
切れ長の目のふちから黒い線が、零れた涙のように。華奢に見えた体の張りと窪みのメリハリが眩しすぎる。
肌に絡みつく様に、万遍なく紋様が刻み込まれている。
美しい。
エルの悲しみが、辛さが、生き様が、想いが、暖炉の炎に照らし出されているようだ。
俺は、目が離せない。だが、離してはいけないとも感じている。
ぽたり、ぽたり。
エルの頬から、次々と零れ落ちる大粒の涙。
「ふ、はは!ははははは!とんだ座興ですまなかったな。魔王の、咎人の私が、道を踏み外した私が!見ろ!こんなに穢れた私が!愛おしさを感じる、などと……!」
必死に涙を拭い、子供のように顔を歪ませては、しゃくり上げるエル。
大事なものなど、いらないだろ?
失いたくないから、必要ないんだ。
別れの時はすぐそこだ。
だが。
俺の言葉は、俺の心には届かなかった。
強くて、弱いエルに。
とっくに惹かれていたんだ。
だから。
震える手を、伸ばした。
●
俺の腕の中で。
エルはただ、ひたすらに。
美しかった。
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