第5話 桔梗 VS エルフェルナ

 進捗の記録用に、日記をつけることにする。

 取りこぼしはしたくない。



 暴力、破壊、殺戮の衝動に駆られた数百人の魔族を捻じ伏せた結果、限界まで酷使された魔王の魂が生命力を失い、再度、死を迎えようとしている。


 殺してほしい。

 この心の痛みが、痛みで無くなる前に。 


 何とかできないか、考えろ。


 もちろん。

 俺が手伝う気になったのは、お涙頂戴ストーリーだからではない。

 

 ムカつくんだよ。

 


【●月×日】


 異世界、コレトリシアを二年間調べ続けて、転生を阻害する魔法やアイテム、方法が存在しない事を知っている。


 なので、新たな手掛かりを求めて桔梗の所へ向かった。


 転移酔いをしたエルフェルナを左わきで抱えている俺を見た桔梗。

 速攻で二人の喧嘩が始まった。


 


 たわけ。そのを捨てて、我を姫抱っこせんか。

 私は、少女に化けたに劣るのか?私を抱っこ。

 芳人、いつものちゅっちゅだ。ん。

 芳人、私にも、またちゅっ……ちゅ?む?


 貴様。そこの汚らしい、なんちゃって猫又。

 何だ。どす黒い性根を具現した黒髪の娘よ。

 



 俺にふざけた濡れ衣をかぶせた二人。


 地べたに下ろした瞬間、ふんぎゃあ!ふんがあ!と転がりながら叩き合う二人を横目に、一声かけて買い出しに出た。


 途中、秋葉原に寄った。

 異世界物の目についた情報をタブレットで仕入れていく。



 帰ると、神社の縁側で日向ぼっこをする桔梗と、がんじがらめに縛られてエビのように丸まって踏まれているエルフェルナがいた。

 

 桔梗、つよっ。


 悔し涙を浮べたエルフェルナの手足のタスキをほどいてやり、ケーキや和菓子で二人のご機嫌を取りながら桔梗に話を聞く。


 命の理には神でさえ手が出せない、出していいものではない。

 我らでも、無理だ。


 桔梗は、そう言った。


 ●


 日記を保存して、メニューを引っ込めた。


 眼前に浮かぶ、惑星のような擬似球体が二つ。

 ふと思い立ち、全く同じ環境の世界で魂が行き来するかを実験している。


(……しと)

 

 自分の魂を元手に作り出した極小のアバターのデータが、ログに流れ続ける。

 その反応が起きた場合止まるように設定している。

 

(今日の収穫は無し、か。あと二週間というが十日ほどと余裕を持って、見ておいた方がいい。最悪の場合は異世界に魂が紐付くように、桔梗に召喚してもらう、か?) 


「芳人」


 んあ?


「あ、悪い。考え事してた。……お前、何持ってんだ?……ラノベ?」

「あの性根が腐れ切った似非えせ神に持たされた。ちゅっちゅ、とはの事か。成し遂げてみせよう。ん」


 タコちゅうのように口を突き出してくる猫獣人。


「エルフェルナ、ハッタリだ。桔梗とは何もない」

「…………む?そうなのか。ならいい。後は、今から私を『エル』と呼べ」

「何言ってんの?お前、どうしたんだ?」


 こいつ、大丈夫か……?


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