第2話 ズルいズルいズルい……にゃっ!


「んん……んああ、あふ……頭、おも……」 


 この夢を見た後は、いつもこうだ。


「……シャワー、浴びるかな」


 作務衣さむえを脱ぎ捨てて、ふとログハウスの窓の外に目をやる。


 魔王領になってから、一度も日が差したことがないと言われる森。


 相変わらず鬱蒼うっそうとして、薄暗い。


 が。


 俺は気にならないし、何より森に用がある。

 魔族に適用されている、輪廻の仕組みについて、だ。



(封印したとはいえ、……魔王と魔族はこの地がある限り復活し続ける。なら逆に、魂が消滅する方法だってあるはずだ)


 大切な家族がいなくなった日本に。

 大切なものなど作りようがなかった、この世界に。

 もう、関わりたくない。


 それだけなのに。

 まだその方法を探せずにいる。


 日本、そしてこの世界の輪廻から外れなくては。


 その為に俺は生きているのだから。


 父さん、母さん、佳奈姉さん、夢花。

 幸せを分かち合いたい、大切な家族はもういない。


 桔梗は眷属に、と言ってくれてるけど、無理だ。

 大好きな家族がいなくなったという事実を、直視したくないんだ。


 俺は……弱い。



『芳人、大切な人と同じくらい自分も大事にしろよ?』

『今日はよっ君の大好きな唐揚げ!ふふっ♪』

『よっちゃん起っきろー!……何よ、あと五時間ってえ!』

『よっちゃ!よっちゃ!ぎゅ!ゆめ、ぎゅー!』



 あの事故の時、俺は一緒にいれなかった。一緒に死にたかった、と何度泣いたか、わからない。


 結局、立ち直れなかった俺は学校で虐められた。


 引き取られて、厄介者だった。


 使い勝手がよさそうだ、と女神に召喚された。 


 事故から後は、自業自得の範疇はんちゅうだろう。

 そう思う。

 立ち直ろうなんて欠片も思わなかったんだから。


 

(食ったら、魔王城近辺でも行ってみようか。ん?これうまい……鑑定)


 モックの『全開!テリヤキバーガー』と表示された。


(もうひとつ食いたいな……あった。ナイス俺)


 ストレージのリストで検索して、出来たての状態の同じ物を取り出す。


 一昨日、桔梗の所に行く前に買ったものの一つだ。

 コーヒーもついでに取り出しながら、桔梗の言葉を思い出す。


 ふと思い立った、日本古来の『縁切り』。


(『縁切りは、神の権能や効能ではない。徳川家の姫の想いの結晶が一つであり、人には及ぶかもしれんが、理にくさびを入れるたぐいではないな』、か……。あれが権能の一つだったら……ん?何だ?)


 ばん!

 ばんばん!


 叩かれる窓。


 つまり。

 俺の不可侵結界を抜かれたという事だ。

 

(魔王以外にもまだまだ強い奴はいたんだな……。ま、気を抜きすぎてたか)


 立ち上がってスタスタ、と窓際に近づいていく。


 ばんばん!

 ばんっ!

 んにゃにゃ!!


「食べたい食べたい、ズルいズルいズルい……にゃ!」


 首すじ迄黒い紋様が彫り込まれている猫の獣人が窓を叩いていた。


「おい、何をしてんだ。猫獣人のマネすんな。何の用だ」

「久しいな……にゃ!」


 しゅばばっ!


「そこは、久しいにゃ!でいいだろうが。構えもウザイ。大体……何しに来たんだよ、お前」


 魔王、エルフェルナ。

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