最終話「アライヴィング・サムホエア・バット・ノット・ヒア」ポーキュパイン・ツリー
1976年以降、キング・クリムゾンの「スターレス」を超える作品を探していた私は、21世紀になってもそれを見つけることができずにいました。
そう、これまで取り上げた作品は素晴らしいものではありますが、残念ながらどれも「スターレス」を超える作品とはいえなかったのです。
そんな中、気になるミュージシャンがいました。キング・クリムゾンやイエスのスタジオ・アルバムのリマスター版の制作や、ライブ音源のエンジニアとして携わった、スティーヴン・ウィルソンという人物です。
プログレ専門誌(あるんですよ、これが)によると、彼はギター、キーボードのほかフルートなども演奏するマルチ・プレイヤーで、「ポーキュパイン・ツリー(Porcupine Tree)」というバンドを率いているほか、複数のバンドやユニットを兼務している天才とのこと。
ポーキュパイン・ツリーって、「ヤマアラシの木」という意味ですが、どうもそんな名前の木は実在しないようです。
まず、ポーキュパイン・ツリーのアルバムで評判の高い、2005年に発表された8作目の「デッドウイング(Deadwing)」を購入してみました。
それがどうやら2015年の話で、アルバム自体の日本発売は2006年だったようですが、私の購入は発売から9年後になってしまっていたわけです。
そこに、あったんです。キング・クリムゾンの「スターレス」に比肩しうるほどの曲が。
正直、私はもう諦めかけていました。やっぱり「スターレス」を超える曲は存在しないんだ、と。
40年近く探してきてたんですよ。無理もありません。
その曲を聞いたとき、やはり鳥肌が立ちました。「比肩しうる」といいましたが、まだ「超えた」かどうかはわかりません。私は何度も聴き返しました。
その曲が、「アライヴィング・サムホエア・バット・ノット・ヒア(Arriving Somewhere But Not Here)」です。
曲名を意訳すると、「ここではないどこかへ」といったところでしょうか。12分に及ぶ曲ですから、「スターレス」の長さとほぼ同じです。
霧の中から現れるようなイントロに始まり、ギターのリフレインをバックにヴォーカル・パートに入ります。
7分近いところで、激しいメタル・サウンドに変わり、9分近くまで続きます。
そのあと再びヴォーカル・パートに戻り、ラストはインストゥルメンタル・パート(楽器のみの演奏)でフェイドアウトします。
哀しみを背負って、車で故郷を去って行く・・・私はそういう印象を受けました。ただの哀しみではありません、相当深く切ない哀しみです。
素晴らしい曲ですが、私が気になったのはラストのフェイドアウトでした。フェイドアウトは余韻を残して終わる手法ですが、ライブではどうするのだろうと思いました。
それはライブDVDとそれをCD化した「アライヴィング・サムホエア・・・」と、ライブCD「オクタン・トゥイステッド(Octane Twisted)」で聴くことができました。
ライブ・ヴァージョンは見事な着地で終わっていました。だからフェイドアウトとどちらが良いということではなく、これはセットで評価したいと思いました。
結論は、現在までのところ「スターレス」と同率1位です。まだどちらが勝っているのか、結論が出ていないともいえます。
しかし、「スターレス」に匹敵する曲が現れたということだけでも凄いことです。
ポーキュパイン・ツリーの「デッドウイング」には、このほかにも素晴らしい曲が収録されています。
死んだ息子の墓の前で、母親が呼びかけるシチュエーションで作られたという「ラザラス(Lazarus)」や、「ザ・スタート・オブ・サムシング・ビューティフル(The Start of Something Beautiful)」の中間演奏部もとても美しいです。
また、2007年に発表された次作「フィアー・オブ・ア・ブランク・プラネット(Fear of a Blank Planet)」に収録された「アネステタイズ(Anesthetize)」という17分以上に及ぶ大作も、素晴らしい作品です。
さて、50年近くに及ぶ私の旅も、終盤に差し掛かったようです。「スターレス」の地位をおびやかす曲がまだほかにも出てくるのか、そして「アライヴィング・サムホエア・バット・ノット・ヒア」との一騎打ちに結論が出る日が果たして来るのか。
今のところ「神のみぞ知る」といったところです。その神は八百万の神(やおよろずのかみ)のようですので、意見集約できないかも知れませんが。
こうなったら、死ぬまで旅を続けてみようか、という思いに取り憑かれています。
終
果てしなき音楽(プログレ)の旅路 @windrain
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