第5話「スターレス」キング・クリムゾン
第4話の「エピタフ」に引き続き、キング・クリムゾンの曲になります。
1969年の曲である「エピタフ」が1976年にFM放送で流された理由は、その年に発売されたクリムゾンの2枚組のベスト・アルバムに収録されていたからだったんです。
そのベスト・アルバムに、この「スターレス(STARLESS)」も収録されていました。その頃は邦題が「暗黒」だったんですけどね。
「スターレス」は本来、1974年に発売されたキング・クリムゾンの7枚目のスタジオ・アルバム「レッド」に収録されていた曲です。
私はベスト・アルバムを購入することによって、この曲と出会いましたが、後に「レッド」も購入しました。「レッド」もまた、ファースト・アルバム「クリムゾン・キングの宮殿」に匹敵する名盤です。
特にアルバムの最後に収録されているこの曲「スターレス」は、多くのリスナーからクリムゾンの最高傑作と認知されています。
この曲は、レコーディング以前からライブで演奏されていまして、ライブ・ヴァージョンではヴァイオリンで演奏されていたイントロのメロディが、レコーディングではエレクトリック・ギターに変更され、エレクトリック・ギターで演奏されていたエンディングのメロディは、レコーディングではソプラノ・サックスに変更されています。
この変更が、すでに奇跡です。特にエンディングの変更は、普通ではありえません。
大トリのメロディを弾いていたギタリスト自らが、自分のプレイをボツにしたんですよ。これこそ「神の導き」というものではないでしょうか。
このギタリストこそが、キング・クリムゾンのリーダーであるロバート・フリップ総帥です(よく「フィリップ」と間違えられます)。
クリムゾンのメンバーは、彼以外は頻繁に変わります。というより、彼がいればクリムゾンであり、いなければクリムゾンではありません。
話がそれましたが、普通のバラードとして陰鬱な雰囲気で始まるこの「スターレス」は、4分ほどのヴォーカル・パートが終わると、何やら不穏な雰囲気のインストゥルメンタル・パート(楽器演奏のみのパート)に変化します。
4分の13拍子という複雑なリズムで演奏されていくうちに、徐々に緊張感が高まってゆき、遂には8分の13拍子という訳のわからないリズムで最初の爆発を迎えます。
その後一旦静まりかえったと思ったら再び爆発し、そして残り約1分半、怒濤のエンディングに突入します。
イントロのメロディーが、まさかこれほど激しくドラマティックなパートに化けるとは。魂を揺さぶられっぱなしで、終わりを迎えます。もう放心状態です・・・。
陰と陽、動と静。
通常は陰と静、陽と動が結びつきやすいと思いますが、この曲の展開はまさに陰と動。いや、陰と「激動」というべきでしょうか。
それを支えたのは、ジョン・ウェットンの轟音のベース・ギターとビル・ブルーフォードの正確で強烈なドラムスという、キング・クリムゾン史上最強のリズム・セクションでした。
第4話で説明した「メロトロン」という鍵盤楽器も、最後の1分で重要な役割を担っています。この楽器は、この曲を演奏するために生まれてきたんだな、と思いました。
このエンディングのイメージを仮に映像で表現するとすれば、ちょうど小惑星探査機「はやぶさ」が、小惑星のサンプルを持ち帰って大気圏に突入し、爆発消滅しながらも、サンプルの入ったカプセルを分離落下させたシーン、これに尽きると思います。
それは自らの死と引き換えに守った小さな命。絶望の果てのかすかな希望。
この曲は YouTube にクリムゾンの公式動画(音声のみ)がアップされており、そこで聴くことができますので、最後の1分半だけでいいですから、どうか聴いてみてください。できるだけ大きな音量で、それが難しければぜひイヤホンで。
なぜこの曲が「神の領域」なのか、わかってもらえたら嬉しいです。
さて、この曲・アルバムが発表されたのが1974年で、この年が重要な意味を持つと前にもちょっと触れましたが、それをここで説明します。
1970年代中盤には「パンク・ロック」が台頭するようになり、プログレッシブ・ロックは衰退期に入りました。
それが原因というわけではありませんが、キング・クリムゾンがアルバム「レッド」の発表前に解散宣言した(※その後1981年に再結成)ことと、「スターレス」がバンドの最終曲となったことで、この曲とアルバムがプログレッシブ・ロックの墓碑銘(エピタフ)になったという印象でした。
つまり、1969年にキング・クリムゾンによって誕生したプログレッシブ・ロックは、1974年に同じくキング・クリムゾンの手によって終焉した、と。
実際にはこの後に発表されたプログレ曲もまだ多いのですが、さすがに急速に下火になっていきましたし、「スターレス」を超える曲は出そうにありませんでしたから(注:個人的な意見です)。
でも、私が「スターレス」を知ったのは1976年で、その2年前にキング・クリムゾンが解散していたというのはショックでしたね。未来が見えなくなったような気がしました。
だから私は、「スターレス」を超える曲を探す旅に出ることにしたのです。
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