第14話 エゴ

「クモくんは私と同じだね」

クモくんは「なんで?」という顔。私は続けた。「みんなから気持ち悪いと嫌われ、さっきなんて箒で潰されそうになってた。」


「キミは人間だろ?クモのオレはあんなこと慣れてる。オレの親も、そのまた親も人間から嫌われているさ。」

「かわいそう…」

「そうか?オレは生まれたときから、人間はクモを嫌うから気をつけろと教わった。だから気をつけてる。なんてことはない、普通のことさ。」


ひどいイジメを受けるようになっていた私は、かつて見た目の不気味さから避けていた虫のことを愛おしく感じていた。理由は単純で等しく嫌われている者同士という感覚だったと思う。


虫たちは私と距離を取ることも、また近づくこともなく、ただその場にいただけだ。言葉を交わしたのはクモくんが初めてだった。クモくんは続ける。


「オレに自己投影するな。オマエは同じ人間から嫌われてるんだ。ニンゲンが不気味な虫を嫌うのとは違う。」


「ごめん、クモくんも同じ嫌われ者だから…。」

「者?オレはクモだ。たいていの人間はクモが好きじゃないだろう。それが普通なのさ。」


言われてハッとなった。

ひどいイジメにあい、毎日がつらい。かつて不気味な虫だったクモに抱いた愛しさの正体は私自身のエゴだ。


「オレは箒で潰されないなら助かるよ。ニンゲンのイジメのことは分からんがね。」

「私はいつか、クモくんを箒でつぶすかも。」

「そうなったらいちかばちか逃げてやるさ」


「そうだね。」と、部屋の隅で動かなくなったクモを見ながら私は言った。

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