第15話 2022短文まとめ
9/15
過去の自分に会えるのが好き。誰かが私を叩く、その誰かにも家に帰るときがあり、私は束の間、叩かれる行為から解放される。次の日また叩かれるけど、翌日までは憂いたり、物を想ったり、身体を労ったりできた。誰かに気のすむまで叩かれると安心。仲良しでいる関係は怖い。叩いて終わりにしてほしい。
9/18
キノコはキノコと喋れるし、キノコトンボとも喋れる。キノコトンボは普通のトンボと喋ることができる。トンボは人間と喋ることができた。
キノコが人間と話したいとき、キノコトンボに相談するといいみたい。人間はトンボに相談すると、トンボは気まぐれなのでキノコに伝わったり伝わらなかったりする
9/19
好きと嫌いの法則があって。ある人が私を嫌うことで、ある人は好きな人が増える。好きになれる数と嫌いになれる数は各々の一升枡の容量と配合によって決められていて、一升枡の中では好きと嫌いが互いにひしめき合い、バランスを保っている。
消しゴムに宿る魂、消しクズの中にもいるんです。
9/20
人は1日24時間のうち30分だけ起きることができる。勉強や仕事、毎日の生活の全ては夢の中で出来るようになってきており、生命維持に必要な作業のために30分起きるが、最近では自動化が進み、この30分すら不要な人をよく見る。
9/25
左向きになって寝て、起きたとき。頭の中のさまざまな組織が左側に詰まっているのを感じている。頭の右側に空洞が出来ている感じ。次に起きたとき空洞ができた方の頭に何か注入してみようか。そう思っているけど、なにを注いだらいいのか分からない。糠味噌を注入したら美味しい糠漬けができるのかな。
ある有名な作家さんがイヌの絵を掲示した。私はイヌくんの顔を覗き込んだ。「これからどうしたい?」いぬくんは世話になるもんか…という顔。私はこの子の意地っ張り感じが好きだ。一人で放り出されたのに、寂しい気持ちも誰かに頼ろうとする行動も寸前のところで堪えている。彼のことが好きになった。
10/1
幸せの幅員
好きな人が幸せになれそうなことをする。そのために自分の時間を使って作品を作ったり。そう、例えば絵を描いたり。時間を費やした作品で喜んでくれたらきっと嬉しいよね。そう思う。
私はちょっと違う。高いものではないけれど、ちょっとした氷菓子を買ってプレゼントするのが好き。
余剰金は無い。
けど、毎日のご飯や飲み物を少しの期間だけ減らしたり我慢すれば実現可能。プレゼントしたことはもちろん、我慢することで身体や気持ちが上げる少しの悲鳴を聞くのが好き。
プレゼントはプラスの感情、我慢はきっと少しだけの痛みの感情。その差が大きいほど幸せの幅は広くなる。幸せのブロードバンド。私の密かな楽しみと愉悦。私の痛みは誰かを幸せにする栄養になる。
10/5
ダンゴムシとして生まれて3年、思い返せばいろんなことがあった。今はただ、長い長い3年間の記憶を掘り返しながら、キラキラした日々、金色の日々の思い出に胸を馳せている。
寿司蕎麦、お寿司も食べたいし、蕎麦も食べたいという要望から生まれた寿司。寿司の上には蕎麦が乗り、蕎麦の上にも寿司が乗っている。
10/6
爪を切る音を聞く。離れ離れになる爪たちの別れの声が聞こえる。残された爪は先に逝った爪の分の栄養を得る。新しい爪の命は煌めく神経の末端を護り、切られ、朽ち、生まれ来る爪に命を譲る。爪は生まれながら死にいく爪とつながっている。生と死は混ざっていた。爪は生きながら死期を知っているのだ。
10/7
ロールネコになる日。「ひとつ願いを叶えてあげるからロールネコになることを約束できる?」願いを叶えたい一心から私はその提案を受け入れた。今朝、3年ぶりにそれはやってきた。もう忘れていた約束、願いだけが叶い、約束はその場限りの子供同士の戯れだと思っていた。私はロールネコになるらしい。
あつあつ焼きそば国の建国記念、振舞われる焼きそば。焼きそば作りに追われる焼きそば焼き職人。各国から賞賛の声、青のり、鰹節が届く。降りそそぐ青のりと鰹節により、あつあつ焼きそば国は繁栄の一途を辿る。
10/10
永眠科を受診する。初診の今日は正しい永眠についてドクターのお話を聞いた。正しい永眠の冊子を受け取り、よく読んでおくよう説明があった。お薬の処方はナシ。来週の月曜に再診、次回の診察では自分に合った永眠を知るため、精密検査を受ける予定。
永眠科ができて1年が経とうとしている。永眠の必要性が人々に認められつつある。精密検査の結果をドクターが診断する。私の希望も聞いてもらうことができ、永眠できる年月が決まるらしい。
永眠科を受診することで希望が持てた。たこ焼きが美味しくなった。ダンゴムシが懐くようになった。幸せな気持ちが持続するようになった。庭の葉っぱの裏にはりついて頑張っているカタツムリに挨拶できた。幸せの時間は、木漏れ日や葉っぱの陰に隠れている。
ニンゲンはタコヤキで出来ている。タコが真剣な顔をして言うものだから、私はつい聞き入ってしまった。どうもタコによると本当のことらしい。たこ焼きを積み重ねていくとそれらは圧縮され、沈殿して人となる。昔から変わらぬ理。人の歴史を知ることは自分の歴史を知ること。私もたこ焼きだったのだ。
10/13
ボイルドサーディンのキーマカレー
一晩寝かせたキーマカレーにとてもよくボイルしたサーディンとスープを入れて火にかける。クミンやチリペッパー、好きなハーブを入れてもいい。沸騰しないように気をつけながら素材たちがダンスをする様を楽しんだら出来上がり。美味しく食べてね。
10/16
空へ。安楽死要件を満たした機体は飛行機の墓場、安らかに眠れる地へ飛ぶ。丁寧に機体の臓器を取り出したら、セントラルプロセッサユニットを機能停止するコマンドが発行され一時停止。承認後に機体である私の意思により一時停止を解除。メインプロセッサに過電流が流れ消失する。承認までの時間を憂う
保全。安全基準は毎年見直され正確に無感情に飛行できる機体が残る。基準に満たない機体は保全対象から外れ、墓場へ飛ぶ。ラストフライト。自動操縦が誤作動時したときのための手動操縦用に監視が一人乗っている。ラストフライト。役割は全て終え、期待に応えてきた機体は無感情のまま最後の地へ向かう
テネレ700と山。最期の地に諦めの空気はなく、陽気な機体たちがパーティをしていた。墓場は確かにあり、沈んでいく機体が見える。そこでよく一緒に飛んだ機体が声をかけてきた。「山に行ってみない?」いいの?と私は聞き返す。機体はテネレ700を指差しこれで行こうという。私は機体から離れて従った。
不等間隔の心地よい振動は血液の流れと同じだ。心臓も原動機も脈流は変わり、振動によって生かされている。「270度クランクはどうだ、いいものだろ?」うん。私はかつて乗せてきた無数の乗客、人間を思い浮かべる。この原動機は人間味がある。機体は振り返る。人間は不等間隔、等しい形などなかった
10/18
浮遊していても浮遊したいと願う。そういうもの。世界は、宇宙は、飛行機は、全ては浮遊しているから全ては浮遊したいと願う。彼女から送られてきた紅茶を淹れた。紅茶は浮遊して水玉になり、水玉は私を覗き込んで言った。「大丈夫、あなたも等しく浮遊してる」私の足は地面を離れ、浮遊する日常を知る
10/19
修善寺の黒米を食す。色素の足りない生物である私は、時折こうして黒米から色を貰い受け、光を反射する色を得て実態となる。今日は1合の白米に黒米小さじ1杯程を混ぜた。黒米は餅の米であり、合わせ炊くことにより白米と餅の米は融合。彼らと等しく餅皮である餃子を合わせ、夕刻近くの昼食は完成した
私も羨ましがらない。熱したフライパンにピーマンの肉詰めを並べて焼き色が付くこと、蒸し焼きを始めたときに立ち上る蒸気をガラス蓋で閉じこめること、蒸し上がった君たちが好きなこと。初めて作るピーマンの肉詰めが上手に、美味しくなるかどうか。些細な不安と期待が交錯する感情を失いたくないから
10/20
はぐらかしてる訳じゃないんだ。気持ちは知ってる。けど、「今の好き」という関係が私にはとっても心地よくて。つり合いのとれたシーソーに乗っているような気持ちよさ。きっと知ってるよね。同じ目線でいられる今を、今を重ねた未来を、今はただそれだけを一緒に見ていたいんだ。今日も暖かくしてね。
10/25
空から降る物質の正体を探るため、巨大なトランポリンに乗ることにした。計算では6400回跳ねる、戻るを繰り返すと目標に辿り着くらしい。トランポリンを跳ねては戻り5800回。回数を重ね到達距離は増え、目標が見えてくる。同時に美味しい物質の濃度も上がる。美味。甘味に気を取られ距離が遠のいた。
10/27
安全な場所から悪口を言う。遠ざけていた場所を久しぶりに訪れたとき、何故私はそこを遠ざけていたのか改めて知る。保身の地位を更に揺るがないものにするための悪口、非難、否定それらの言葉に本人の意思や文責はなく、全ては他人が経験したことを代弁し、焼き直す。そんな言葉を吐く蛆が湧いていた。
11/3
目分量で作ると楽しい。きっちり量らずその日の気分で味付けをする、今日の気分や体調が味付けに出たりする。料理で体調を占ってるみたいで楽しい。昨日作った茄子の揚げ浸しは出汁が染みて美味しくなっていた。明日はオイスターソースと味醂と酒で蒸し焼いたピーマン肉詰めの味の変化を楽しもうね。
11/4
知恵の輪の様に行き交う一万円札、横暴によって供えられた一輪の花の根はまた、等しく横暴の応報により胃に至る。他者の心を踏み荒らした者たちは全く同じ形の報いを受けるのだ。
11/13
・早く死ぬ世界
ある年齢から政府の決めたルールに基づき、「早く死ぬ」ことにより早期死亡金が支給されることになった。政府の決めたルールは1年後に健康保険、年金制度の任意選択事項の一つとなり、節目の年齢を過ぎたものたちは後世の人々に金品を残すべく、早期死亡を選択をするようになった。
早期死亡金の目的は次の3つ。
(1)納税能力の無くなった者たちに早期死亡してもらうことにより、社会保障制度などの国の財源を守ること。
(2)(1)と同様に納税能力を欠いた者が早期死亡することで、若年世代の勤労意欲を増大させること。
(3)社会保障制度を充実させることにより、出生報奨金、子育て支援など、国のために働き、納税能力の高い人物を作る体制作りを確立するため。
11/16
花柳の銅に流水の網が無く、鈴の根の涙に水彩筆の根っこが咲いていた。ただ花の蕾にはプラスチックの金属片が固まって取れなくて困った顔をする私に紫陽花色の切り子ガラスの鳴き声が響いた。泣いていると外の紅葉は紫色に変わって水分を吸収していた。何故そうなるのか𩸽で釣った海猫は知っていた。
医療界の鵯は新型肺炎の抗体を飲まなかったが政財界の鴎達は刀を抜いて下々の民に抗体を垂らし試験した。抗体は民の体内を駆け抜ける。鵯や鴎の仲間も死に至る者が出たが闇に葬った。そこでお尻を嗅ぐ猫が現れ、また猫の意志を継ぐ亀がそれに続き悪い抗体を嗅いだところ死んだ。民の代わりになった。
11/18
綿菓子脳
ペロッと脳を舐める、甘い。彼の脳は綿菓子でできている、いつも隠しているけれど今日は特別に味見させてもらう。綿菓子の脳と会話する、挨拶する、こんにちは。挨拶を返してくれる綿菓子、甘い言葉に誘われオイスターバーにいる。活きがいいね、と綿菓子くん。美味しい牡蠣を食べようね。
12/1
無反動銅ハンマーで頭をたたく。銅は頭よりも柔らかいので、思考の凝りがほぐれる。思考、凝っていたんだなと思う。銅ハンマーのおかげで思考の凝りはほぐれ、より洗練された思考に生まれ変わる。今でも銅ハンマーは手放せない。思考をアップデートする必要があるからだ。
38階の手すりを掴む。いつも手すりにつかまっている。見えない手すり。体温の階段を上りすぎると手すりを持てなくなることがある。やがて人体は落下し、生身の重さを捨てた身体は体温の階段を上っていく。やがて手すりが完全に見えなくなったとき、体温の階段は消失し、体温は飽和して大気に還る。
12/15
「オヤスミン」と言ってオヤスミンを飲む。永遠の眠りを手に入れる。怠惰で暖かな陽射しが揺蕩う昼の夢を見続ける私。私だけが存在する世界でヘビや蜘蛛の夢を見る。蜘蛛は優しかったしヘビは美味しい食事に連れて行ってくれた。暖かい陽射しと優しい蜘蛛、美味しい食事を何度も繰り返し、目は覚めない
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