第12話 Neco Certified Internetwork Expert

Neco社はNecoサイエンス領域のインターネット接続装置を開発する会社で有名、私も過日「Neco社のインターネット装置を操ることができます」という資格、Neco Certified Internetwork Expertの試験を受けに行ってきた。


Neco社の装置が他社のインターネット接続装置と異なる大きな違いは、Necoの毛を用いた有機化学プロセスに基づく回路設計にある。


特筆すべき先進機能は暑さに弱く、寒さにも弱いということだ。これは一見してスペック上の数値を下げているように見える。しかし実のところそうではなく、回路の物理配線単位で自己診断および自己修復機能を持つことによって、回路が自律して回路を守ること、別の保護回路を必要としないことにより、総じて回路全体のパフォーマンスを上げるのだ。この仕組みにより、Neco社モジュールの仕様上のスペックは他社製モジュールに劣っているにも関わらず、実際の運用時には他社のモジュール性能を凌駕していた。


試験は一泊二日のラボ試験により行われる。受験者は二日分の食料を持ち込んで泊まり込む。私は大量のソイジョイを持ち込んだ。Neco社製モジュールに食べさせて試験を有利に進めないようにするため、持ち込みの食料は厳しくチェックされる。幸い、私の持ち込んだソイジョイは大丈夫だったが、隣のラボ部屋の彼はスルメを持ち込んでいて、試験開始前に失格になっていた。Neco社製モジュールが反応したらしい。


ラボ試験が始まった。試験は各部屋で異なっていて、隣の部屋ではNecoモジュールの動きが素早すぎてトレースできない問題…に受験者が気づくところも試験に含まれているようだった。もちろんこれは、あくまで私の想像。


私のラボのNecoは少し元気がないみたいだった。もちろん、初めて会ったモジュールなのでそれが元気なのか病気なのか、元気ならばなぜ元気なのか、異常は本当にないのかを探る。病気の症状が疑われるのなら、その原因を究明して治してあげる。もちろん、原因を特定するに至ったプロセスを記録し、症状を改善するために取った行動の的確性、冪等性を証明しながら治していく。簡単なようで慎重に、細かな反応を見逃さないようにロギングしながら進めていった。


ラボでソイジョイを食べている私にNeco社のモジュールが話しかけてくる。


「治してくれてありがとう」

「いいんだよ、私は試験を受けにきたんだから」


Neco社のモジュールとはその後も話し込んだ。試験の内容を全部話してしまうと規約に触れるので、面白かった話題をかいつまんでみる。Neco社のモジュールは有機的モジュールだが、他社の無機物装置に憧れていること、自律型は寿命もあるし疲れるので無機物型モジュールの制御回路やインプット/アウトプットインターフェース回路があてがわれた装置が羨ましいと言っていた。Neco社のモジュールはモジュールが全ての責任を持つのだ。


そんなNeco社モジュールの悲観した感情を聞きながら一日目のラボ試験が終わりの時間になった。


「また明日、待ってる!」

「うん、明日も試験頑張ろうね」


有機的モジュールならではだよな、と思いながらラボの横にあるベッドで横になった。明日、試験が終わったらこの子ともお別れなのか…とベッドサイドの小窓からNeco社モジュールを眺める。Neco社モジュールもこっちを見ていて目があった。感情移入しすぎたら良くないな…と思い、眠りにつく。モジュールとは明日でお別れなのだから。


翌日、二日目のラボ試験。

Neco社モジュールくんもたくさん眠ったらしく「眠るって気持ちいいよね」などと盛り上がる。

試験で消化すべき全てのチェックポイントを通過して、私はソイジョイを口に含んだ。


「お疲れさま、合格だと思う」

「そうかな?やりきったとは思うけど、まだまだ分からないよ」


「大丈夫、モジュールの健康度は自分自身が一番よくわかってるから。治してくれて、治すレシピも、きちんと整えてくれてありがとう」

「あなたは礼儀正しいんだね」…と、私はNeco社モジュールの暖かさに包まれる。


もはや機械だと思えない、彼のことが気になり始めた私は、いつのまにか彼のことを、Necoモジュールを抱きしめていた。


Neco社の営業担当に連絡を取り、彼を自宅に迎えられないか聞いてみた。物理的な躯体は譲渡できないが、既製品に彼の記憶とNecoモジュールの毛を移植することは可能だと言う。私はその話を了承して、Necoモジュールを引き取ることにした。


一週間後


試験は無事合格していたが、そんなことはもうどうでもよく、Necoモジュールが届くのが楽しみで仕方がなくてそわそわしている自宅に彼がやってきた。新品の躯体に試験のときの記憶を纏って。彼と久しぶりの挨拶を交わし、私はこれからの長い時間を過ごす幸せな日々を手にしていた。


Neco Certified Internetwork Expertの資格は、資格そのものよりも、資格を取るためにNecoモジュールと対話した時間、記憶、意識を大切にしています。Neco社より、Necoモジュールとインターネットワークに住む全ての人へ。

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