第10話 空白の時間割
紅色のランドセルを開くと、そこには小ぶりのポケットがついていて、私はそこに学校の時間割表を入れていた。
たぶん、きっと、他の誰かもやっていたと思う。このポケットに時間割を入れておくと次の日の準備が楽なんだよね、明日の授業は国語と算数と…あれ、明日の授業は2つだけ?
私は私の目を疑った。時間割には1時間目は猫、2時間目はねずみの絵が書いてある。おかしい、国語とか、算数とか書いていたはずなのに。更には明日は2時間目の授業で終わりになっている。
授業の時間数が少なくなったことは信じがたかったが、きっと黙って過ごしていれば猫の絵とねずみの絵の授業が終わったら自由なのかな。そんなふうに思って明日の学校の準備をして、早く眠ることにした。早く眠るのは、なんだかその時間割を見ていたら異様な疲れ、眩暈を覚えたから。立っているのも座っているのもしんどくて、とにかく早く横になった。
眠りにつく寸前だった、シーツのおばけが現れて私に言った。「癇癪餅に気をつけろ」と。
翌朝、何事もなく目覚め、朝食には切り餅を焼いた磯部巻きを齧ってから学校に登校した。
学校に行くと、猫が怒っていた。
「俺の生き方を、持ち物を、楽しみをバカにしやがって!」
猫は激昂し、誰も手をつけられない。
猫は続けた。
「いままで生きてきた証も、大切にしてきた持ち物も、唯一の楽しみも全て壊す!」
猫はそう言い、はじめに家族と写っている写真を取り出し、地面に投げつけ、火を放った。写真は燃えて灰になり、炭になった。
次に、お絵かきノートを取り出して火をつけた。子どもの頃から描いてきた絵、ノートにはパラパラマンガも描いてあり、炎がパチパチと音を立てながらパラパラマンガのページをめくって炭になった。
次に猫は、自分の体に火をつけた。ちりちりと毛の焼ける匂いがする。見ていたねずみが駆け寄り、猫の毛を焼いている炎に纏わり付いて火を消した。
「俺の邪魔をするな」と猫。…と同時に猫は猫の本能でねずみを噛み殺していた。
ねずみは息耐え、猫は一生を得た。猫はもう一度自分の体に火をつけることもできたが、それをしなかった。学校の敷地にある墓地の隅に小さな穴を掘り、猫はねずみを埋めた。猫は少し悲しそうだった。
1時間目の授業が始まると、猫が言った「2時間目の授業は中止になった、私の授業が終わったら各自帰宅するように」と。
私は猫の授業を受けてから墓地に行き、ねずみを埋めた場所にタンポポなどの草花を供えた。
癇癪餅の猫が遠くで私のことを見ていた。私はそれに気づいていたが、気づかない振りをした。
翌週の時間割は1時間目が猫、2時間目は亀。私は2時間目の授業が空白にならないために、亀の家を訪ねた。
翌週の授業は滞りなく行われた。もう猫の授業は無かった。私は癇癪餅の猫を井戸に捨て、代わりに私が授業をする。
みんなは何も言わなかったが、亀は私のとった行動を知っていて私を脅した。私は週末に亀を始末する予定だ。そうして私もまた、誰かの癇癪の餅に障り、消されるのだろう。
空白の時間割はこうして作られていく。
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