第5話 たこ焼きヶ丘団地
ここはたこ焼きヶ丘の団地、集合住宅も戸建住宅も建っている。団地に暮らす人々を支えているのは、この団地の名前でもある「たこ焼き」だった。
夕刻、たこ焼きのお店はたこ好きな客で賑わい、ほとんどの家庭はそれらを持ち帰り、家族の晩御飯にする。晩御飯はたこ焼きがメインディッシュで、汁物や野菜などを都度用意するというスタイルが主流だ。
夜、不安で寝付けないときはたこ焼きから抽出した成分で作られる眠り薬を服用して眠る者がいる。副作用は翌日にたこ焼きが食べたくなることくらい。
朝、ほとんどの家庭でたこ焼きをパンに挟んで食べる。もちろんご飯のおかずにしている家庭もある。朝はたこ焼きを食べて1日のスタートをよいものにする…というのがイマドキのライフスタイルというものだ。
たこ焼きばかりで1日が過ぎてしまいそうなコミュニティだが、実は外部に秘密にしていることがある。それは住民たちがたこ焼きから摂りすぎてしまった植物性油脂の除去作業である。
昼、彼らは並ぶ。油脂除去施設のコンベアに乗って運ばれ、除去装置の中に5分ほど入り、出てくる。出てきた住民からは油脂が取り除かれ、夕刻に向けてたこ焼きを食べるために仕事を、勉強を頑張ろうとする欲がみなぎっていた。
たこ焼きを食べ、眠り、朝を迎え、油脂を除去。ルーチンワークは慣れると簡単で、考えなくていい。およそすべての住民は日々のルーチンに疑問を抱かない。
全ての幸せはたこ焼き、および密接したルーチンにより成されていて、調和が取れている。そこに異論は生じず、ただ住民たちは幸せな日々を過ごすのだ。
変化のある都市部に住んでいる人から見たら奇異に映るかもしれない。でも大丈夫、こんなふうに幸せを感じて人生を紡ぐ住民が、人々がいることを心の片隅に置いてみたらいつかわかるだろう。
何も変化がないことは悪いことだと決めつけてはならない。そんなことを感じ取ってくれたら嬉しいんだ。
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