第2話 浜猫

「その猫の子供に触ってはいけないよ」と浜の人が言う。

実は、試しに浜猫の子供、まだ目も開いていない浜猫の子猫に触れてみようとしたのだ。意外な結果だった、外の世界が見えない乳飲み猫には鋭い牙があり、小さい体ながらも渾身の力で私の指先に穴を開けたのだ。


浜の猫は、港の海産物を食べて生き延び、代を重ねてきた。もう何百年も前から浜猫は海産加工品を糧とし、追い払う人間を敵視する。過去には猫捕りの罠にかかり、命を奪われた浜猫もいた。だから浜猫は人間を敵だと認識している。それは新たに産まれくる命である浜猫の子供にも遺伝し、産まれたばかりの浜猫は生まれ持って人間を敵だと認識していた。


私は浜猫の子供に関わるのをやめ、船着場の色褪せた漁具の隅で鳴く浜猫の子供を見てみぬふりをしていた。


翌日、水産加工場に鉤針で吊るされたタコが食い荒らされていた。それは、たこ焼きになるために適切な茹で処理を行い、一晩干した翌朝のことだった。全てのタコは出荷できなくなってしまったのだ。加工場の担当者は静かに怒り、害を及ぼす浜猫の駆除に向けて動き出すと言う。


翌日、浜猫の影は見えなくなり、たこ焼き用のタコを鉤針に安心して吊るすことができた。


浜猫はどこに行ったのだろう。担当者に聞いても教えてくれなかったのだが、あるとき浜猫が消えた真実を知ることになった。


浜猫は一方通行の通路に誘導され、二度と外に出られない船倉のなかで船を推進させるためのエンジンの一部になっているらしい。


どおりで今日のタコ漁は、船の進みが早い。ハイブリッド船。浜猫たちはタコを食い荒らす存在から、タコを捕獲するための船のエンジンの一部として役に立つようになったのだ。


浜猫は疲れを覚えず、元来の凶暴さとスタミナを使い、船を漕ぐ。今日のタコ漁はとてもスムーズだった。船倉を見ると、浜猫たちは少し減っていた。きっとまた、次の浜猫を追加しなくてはならないだろう。

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