墜落

neon.soda.popn

第1話 藪の中

進まなくてはならない、そして目を開けなければならない。

藪の中を進む、足を前に踏み出して進む、目を見開くと藪の中から無数の棘に襲われ、痛みに耐えかねて目を閉じる。目を閉じて藪の先に進むことを放棄する。視界から藪も空も泥の地面も消え、歩を進められなくなる。


「安全じゃないか」

なにも、周りの皆が藪の中を進むからといって、迎合することはない。藪を中を進まなくたって何も変わらない。


歩を進めなければ目を開くことができた。藪の中は動かなければ、たちまち安全な場所となる。彼はその場に座り、荷物からたこ焼きを取り出して食べることにした。


たこ焼きにソースをかけ、鰹節や青のりを振りかけて気づく。楊枝や割り箸といったものがない。


辺りの藪を見渡すと、爪楊枝の代わりになりそうな長い棘が見つかった。棘を千切って楊枝の代わりにしてたこ焼きを頬張る。美味しい、しかし、いつもと違う痺れを感じてその場にうずくまった。


胸が焼き付くような感覚と、時間の感覚を失わせるような眩暈に似た脈動が脳と思考を断ち切り、彼はうずくまった丸い姿のまま固まってしまった。


彼女は藪の中を進む。随分と大きい棘の根元は、丸く固まった彼の成れの果てだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る