42話 合流しました
「リュウユウさん、私たちはここで大丈夫です。我が光の導きが見えましたので」
リイチはそう言うと、ちらりと僕たちが進もうとした道とは違う道を見た。
そんな僕たちは現在、ジュリャンに案内されるまま、熱砂楼の硝子の中に入り、熱砂楼の第一・第二市場への入り口の前に入る。
あの衝撃的な初対面のあと、ジュリャンが乗ってきた大蜥蜴に乗って、硝子の逆側に周り、見えてきたのは熱砂楼に入るための門であった。門にはたくさんの熱砂楼の僧兵たちが検問しており、入ろうとしている行商人でかなりの行列になっている。そして、その行商人たちは皆突然の豪雨に濡れてしまっていた。
僕のせいではないが、正直大変申し訳ないと心で彼らに謝る。
さて、僕たちはというと、幸運なことにジュリャンがいたため、検問もすぐに通ることができた。正直、本来ならばあの行列に並ぶことになっていただろうし、その僧兵の検閲を横目に見たが、相当厳しいと思う。
荷物の中身も厳しく確認され、身体も触られての確認もあった。
胸元にマサナリ皇子たちがいるため、それはなるべく避けたい。
ちなみにトゥファは役目を終えたとばかりに、僕の体の中に戻ってしまった。きらきらとした光が僕の中に入っていき、自分の中で眠っているのが今はわかる。
なので、今はリイチと僕、ジュリャンの三人で行動をしている。
さて、そんな時、第一市場から第二市場へと通じる道を見たリイチが、突然そう話した。
「麗しのレディ、ここで本当にいいのかい?」
「私はレディじゃないですが、ここで大丈夫です。我が光の導き、間違いはございません」
ジュリャンは心配そうにするが、リイチの表情は確信を持った強い意志を感じた。
「リュウユウさん、本当にありがとうございます。またどこかで、会いたいですね。多分、我が光の思し召しがあれば、会えると思うので」
リイチは今まで一番眩しい笑顔で笑う。思わず僕の頬が熱くなるくらいだ。
「それでは、皆さんの道に光あれ」
そう言って両手を合わせて、小さく祈ったリイチは、第二市場の雑踏の中へと消えていった。
僕は第一市場を通って、首長が住む宮殿へと向かう。首長というのは、この熱砂楼連邦を纏めている一番偉い人のこと。
「首長と、次期首長と呼ばれる若様は素晴らしく良い人達でね。僕が麗しの姫様に惚れてこの国に来た時に、いの一番に応援してくれたのだよ」
ジュリャンはそう言いながら、誰かを思い出したかのように、頬を染めながら格好をつけている。麗しの姫様とは思うが、本当にこの人は龍髭国から飛び出してきたらしい。
「ただまあ、今は不安定な時期でね。本来ならば、姫様の近くでお守りしていたいのだけど、どうしても僕にしかできないと言われてね、君を迎えに行ったのだよ」
「大変、助かりました。ありがとうございます」
「はははっ、まあこれも才能溢れる僕だから頼まれるのだけどね」
何度このやり取りをしたか分からないほどに、僕はいい慣れた言葉を向ける。余程、姫様の傍にいたかったようだ。
不安定な時期と、ジュリャンは言ったが、そもそも熱砂楼はとても不安定な国だ。
そもそも、熱砂楼は他の国とは違い、国王というものは存在しない。なぜなら、様々な部族が寄せ集まって暮らしているこの国では、一番事業で儲け、一番民に仕事を与えている人が偉いという価値観だからだ。
砂漠化が進むこの大地。住むところを追われ流民となった人たちが行き着いた先がこの交易の要である熱砂楼連邦なのだから。
この国において、誰が建国したのかなんて、なんの意味もない肩書。今現在の商才が無ければ、族長会議というもので首長の挿げ替えが起きてしまうような国。
いや、様々な国の寄せ集め、組織化した大きな市場なのだ。
「思えば、第一市場と第二市場は何が違うんですか?」
「良い質問だ、リュウユウくん。第一市場は見た通り工芸品や生地、食材等、誰でも使える食べられるものが殆どだな。熱砂楼の硝子工芸や織物もあるんだ。素晴らしいだろ」
ジュリャンは楽しそうに笑いながら、辺りを手で示す。龍髭国では見ないような色の配色で、露天商の日除けに使われる様々な布が、市場を色鮮やかに見せている。周りも庶民的な人が多く、かなりの賑やかさがある。
「第二市場は専門的なもの、例えば機織り機や、糸紡ぎ、薬や医療器具等もある。ちなみに、第三市場は主に高級品だな。
ジュリャンは格好つけながら、ふっと笑う。最初はどうすべきか扱いに困ったが、段々と自分の中で面白い先輩だなと思うくらいには流せるようになってきた。
「その三つの市場の中心にあるのが、首長が住む地域『
ジュリャンが見る先には、砂時計の括れの真下今も降雨の水を受け止める大きな青緑色の瓶のような建物があった。
「
「美しいだろう。普段は僕もそこにいる。首長と、各市場の長たちもいるからね。あ、もう他の二班の人達もいるよ」
既に到着してると聞き、僕は心の中で安堵する。どうやらあと少しで、この大事もちゃんと終えることが出来るのだろう。ほっと安堵している僕には気付いてるのか気付いてないのか、ジュリャンは言葉を続けた。
「しかし、久々に見たけど、まさかグユウが班長になるとは。時の流れも残酷なものだ」
「そ、そうなんですね」
「ああ、あんな泣き虫、シュウエンさんが居なかったら、逃げ出してただろうな」
にっと笑うジュリャンは、どんどんと歩みを進める。グユウは泣き虫だったのだろうか。僕には想像がつかないが、もしそうならセンセンの反応も頷けた。
そして、暫くして、緑洲の門をくぐると、一人の大きな黒い影が、物凄い勢いで僕に駆け寄ってくる。
「リュウウウユウウウウウヴヴ!」
「なっ!? あ、兄貴!?」
それは紛れもない、ハオジュンであった。涙と鼻水だらだらと流した彼がこちらに来る。まずい、抱き着かれる。今は胸元にマサナリ皇子達がいるのに。僕はその瞬間目を瞑った。
ドドドドッ!
地面から凄い音が鳴った。
びっくりして目を開けると。そこには、幾重もの木のような蔦のようなものが生えており、ハオジュンを捕らえていた。
「へっ? ぇ?」
あまりのことで驚いている。ハオジュンも驚きのあまり、色んな汁を流したまま呆気にとられた表情をしている。
「リュウユウ、お前もしかして、龍を!」
そして、ハオジュンよりも向こうにはジンイーもいるのだろう、慌てた声が聞こえた。
とりあえず、僕に今出来ることはただ一つだ。
「ハオジュン兄貴、ごめんなさい! ジュリャンさん、も! どうしましょう!」
謝ることだけだった。
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