25話 占術師現る
「おは……こんちは〜、遅くなりました」
朝一番とまでは行かなかったが、昼手前にやっと現れたシュウエン。弱々しい声で挨拶しながら、天守閣へと入ってくる。
僕は慌てて修業を中断し、彼に駆け寄った。
「シュウエンさん!」
シュウエンもグユウから話は聞いていたらしく、僕が声を掛けると彼は「すまん、すまん、待たせた」とやはり嗄れた声をしていた。
「喉大丈夫ですか?」
「ああ、夜風に当たりすぎたみたい」
困ったように笑ったシュウエンは、ちらりと放出の練習をしているジョウシェンと、その指導をしているグユウの方を見た。思わず、その視線に連なるように、僕も彼らをちらりと見る。グユウと一瞬だけ目があった気がするが、珍しくすっとその視線は反らされた。
「まあ、いいや。で、小リュウどうした?」
「あ、そうでした、実はですね……」
思わず、その視線に気を取られて本題を忘れるところだった。シュウエンの促しに、我に返った僕は昨日の出来事を色々伏せつつ、シュウエンに呪術を解除できそうな人がいると伝えた。
その話を聞いたシュウエンは、少しばかり目を細めて、軽く疑いを抱いてるのが分かる表情で僕を見てきた。
「ふーん……少し謎が多いけど、本当なら解決役満じゃん。なら、俺は知り合いの刺青師のやつに連絡するから、その解除できそうな人にいつがいいか聞いといてくれる?」
「はい!」
まだ引っ掛かることはあるだろう顔をしてるシュウエンだが、それよりもこの致命的な問題を解決する事のが先だと思ったのだろう。
了承してくれたのは、正直嬉しかった。
シュウエンとやり取りをしてから、四日後の深夜。また、僕の部屋に入ってきたセイに、布団の中で上半身を起こしたままの僕は、昼に話していた内容を告げた。
「なるほど、俺等は当分ここにいるから、三ヶ月以内なら問題ない。解除だけは、うちのやつにも、できると言われたしな」
「うちの……その人って、サーカスの人なの?」
「ああ、うちの占い師だ。サーカスでも小さな屋台で占いをして小銭稼ぎしている」
占い師、たしかにサーカスの周りにはいくつか出店があり、その一つに少し風変わりな天幕があったような気がする。
紫と濃紺の縦縞が特徴的で、きらきらと輝く硝子と金の飾りがとても美しかった。
女性たちが連日列を成して、天幕の前で待っていたのを昔見たはず。
「もしかして、紫の?」
「覚えてるのか? そうだ、それ。怪しいやつな」
セイにはあの天蓋が怪しいと見えるのか。
彼の審美眼に対して新しい発見をしつつ、僕は言葉を続けた。
「とりあえず、日程決まったら言うから」
「ああ、今度は三日後に来る。また話そう」
「うん、そうだね。話そう」
なんとなく、むず痒いやり取り。セイは、今日は早めに部屋から出ていく。僕は途端に眠くなったので、布団の中へと潜り込んだ。
勿論、次の朝にはシュウエンへとこの話を報告した。
「へえ、サーカスにいるのか。近くにいるのはやりやすいな」
「はい。ちなみに、刺青師の方は?」
「ああ、二人居るんだけど、比較で問題起こさないでこの国に来れるやつに頼んだ。二週間くらいかかるけど、まあ許せ」
比較的に問題を起こさないとは、一体どういうことだろうか? と思いつつも、有り難いことには変わりない。
「ありがとうございます。助かります!」
そう言って頭を下げると、シュウエンは僕の肩を叩きながら、「気にすんな」と自慢げな口調で返してくれた。
そして、それから二週間後。
シュウエンが刺青師がやってくる日だ。
なぜだか錦衣衛たちが多慌てで、急遽宴を開くことになったようだ。以前とは違い、大きな出し物等はないようだが、宴を開くほど偉い人が来たということだろう。
「まさか、まだ扇鶴国の皇子たちも帰っていないのに、偉い人がまた来るなんてと、錦衣衛たちもさぞ大変だろうなあ〜オレも手伝いてぇなぁぁあん」
そう言いながら、元帥がルンルンと全体会議で話していた姿は、とても愉快そうだった。
そんな折、シュウエンと決めた段取り通り、朱鯉宮の入り口で僕は、セイと占い師が来るのを待っていた。
(遅いなあ……)
待ち合わせ時間から少しばかり過ぎているが、セイらしき人はまだ到着していない。
きょろきょろとあたりを見渡しつつ、僕はただただ待つことしかできないでいた。
「まだかなあ」
「すまん、待たせた」
「わあっ! ……もう、おどかさないでよ、セイ」
来るだろうと思われる道の方向を見ながら、愚痴みたいにぼやいた瞬間。急に後ろから声をかけられた。いきなりだったので、びっくりしつつ振り返ると、そこには青いきれいな他民族衣装を着たセイと、もう一人男性がいた。
金の鎖で出来た精巧な髪飾りを着け、濃紺の長髪を綺麗に流した男性は、温和な顔つきをしており、少しばかり不思議な文様が書かれた白黒の旗袍を着ていた。
「はじめまして、リュウユウです。この度はありがとうございます」
男の方に頭を下げると、男は優しく微笑んだ。
「いえ、これぞ星の導きですから。私は、ウェィズ、しがない占術師でございます。けれど、少々特技がございまして、この度はそれが役に立つとのこととても嬉しく思っております」
丁寧すぎてむず痒い言葉を聞きながら、4本指を重ねた拱手で挨拶されたので、僕もまた拳とそれを握る手のひらの形の拱手で挨拶を返した。
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