幕間 宴会の話 & 試験翌日の話
ーーー 宴会の話 ーーー
シュウエンから小さいと言われ、少しばかり意気消沈している僕は、グユウから酒が入った瓶一つを渡される。
「気分転換がてら、挨拶しに行こうか」
優しい提案に僕は「はい」と返事をすぐに返した。
柔らかく微笑むグユウに案内され向かう先には、予想通りの人が酒を飲んでいる。
今日何か縁があった黒眼鏡の人のいる場所。
お目当ての黒眼鏡の人は、とても楽しそうにぐだぐだと酒を飲んでおり、隣りにいる他の龍仙師の人に楽しく絡んでいる。
ただ、完全に酔ってるわけではなく、次第に近づいてきた僕たちにいち早く気付いた彼は、バッとこちらを向きニヤリと笑った。
「元帥、よろしいでしょうか」
「ああ、第二班班長、お、そちらは新入りか?」
「はい、リュウユウを連れてきました」
「リュウユウです。宜しくお願いします」
「おお、新入りだな。俺は、元帥とか言われてるがまあこいつらをまとめてる姓はバン、名はオンソウだ」
そう言って、黒眼鏡を少しずらす。
彼の瞳は、闇のように黒い結膜に赤い角膜が浮いていた。今までに見たことない目の色のため、思わず自分の体が跳ねてしまう。そして、すぐに我に返り、大変失礼なことをしたと頭を下げた。
「す、すみません。驚いてしまって。は、はい。宜しくお願いします」
「ははは、びっくりしたろ、まあ伝染るもんじゃねぇから」
元帥はそう言うとゲラゲラと笑い、手に持っていた大きな盃を僕へと差し出した。僕はそれにたっぷりと酒を注ぐ。盃の中身がいい頃合いになった時にはもう、かなり重かった酒瓶が殆ど空になってしまった。
「他の奴らと、もしかしたら身分差感じるかもしれねぇが、ここは実力主義だ。年が下でも追い越そうと思えばできる。なあ、班長」
「はい、そうですね」
「まあ、俺はなんか知らず知らずここまで来ちまったけどな」
そう言って笑った元帥は盃をぐいっと煽る。先程注いだ量が一瞬でなくなるくらいの、あまりの飲みっぷりに呆気にとられてしまった。
「あ、元帥~! ずるぃ! 俺も酒飲む~! リュウユウ~! お前も飲んでっか~! 俺は飲むぞ~!」
すると、どこからともなくハオジュンが横から現れて、元帥の近くの酒瓶を手に取り、そのままラッパ飲みする。小さい体に酒がどんどんとなくなっていくのが、わかる飲みっぷりだ。
「あ、あれ、ハオジュン、シュウエンは?」
しかし、それよりもシュウエンが見当たらないことに気づいたグユウは、先程まで一緒にいたハオジュンに行方を訪ねた。
「んぐ、んん?? ぁあうぇんあっ! うぃぇえぇう!!」
「え、そ、そうなのか? すみません、ちょっと見てきます」
「え、おい、グユウ!この酒乱を置いてくな! おい、グユウ! リュウユウも、こまっ! ってあぁ行っちまった」
自分には全く聞き取れなかったシュウエンの居所を知ったグユウは、慌てて部屋の隅に向かっていく。また、元帥には相変わらずハオジュンが纏わりつき、「オンソウパイセンも歌いましょうよ! 酒少ないっすよぉ! リュウユウも歌うよな!」と絡み酒をし始める。
「あ、いや、歌わな「歌ぁ? なんか、いいなそれ! よっしゃこれから歌自慢開催する! 一位になったやつは俺が旨い肉奢ってやる!」
ハオジュンの誘いに僕が断りろうとする前に、元帥は楽しそうに笑い、高らかに宣言をした。そして、元帥は「もちろん、新入りも歌うよな?」と僕の肩を掴む。これは逃げることはできない。僕はそう直感で悟った。
その後、諸先輩方が歌い尽くした後で僕が歌う頃にはもっと混沌とした宴会になってたのは、言うまでもない。
ーーー 試験翌日の話 ーーー
「おい、リュウユウ!」
「あ、ランイー……」
夕方頃、野菜売りのところへその日のご飯を買いに行ったところ、後ろからランイーに声を掛けられた。
「昨日お前と夜飯でもどうだと思ったのに、いつ帰ってきたんだ?」
少しばかり拗ねた表情のランイーに、僕はただ苦笑いを返す。試験に受かったことは身内にくらいなら言うことを許可されている。しかし、ランイーの場合はお兄さんのことや親のこともあるため、言うには少しばかりどういうべきなのか答えを迷う。
「朝かな、色々あってね」
「お前が朝帰り? なんだ、どっかで剣術の練習してたのか?」
「剣術か……」
「まあいいや、とりあえず試験お疲れ。あとは、試験結果待つだけだな」
「……思えば、ランイーは試験どうだったの? 僕はなんか、不完全燃焼だったよ」
試験結果を既に知ってる身のため、どうにかその話を無理矢理逸らしたいので、実際の試験当日について話を聞いてみた。
「リュウユウが、不完全燃焼? 珍しいなあ」
「そう?」
「まあ、来年もあるし、気にすんなよ。俺はもう今年で懲り懲り。本当に、剣術向いてないわ。どうせなら、やっぱ文官のがいいなと思うわ」
諦めたように話すランイーの横で、(剣術要らないんだよ)と言いたくなる気持ちを抑える。話の逸し方を間違えた。そうしみじみと感じた。
結局、ランイーに言えたのはその二週間後。朱鯉宮にて文官への推薦が来たと喜ぶランイーに、僕もまた龍仙師の合格通知書を見せることが出来た。
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