第11話 存在
「にゃーっ、て言ってた。」
セリから答えが得られる訳じゃなかった。
昼寝の間の事をシュルトに説明している間。ロードから冷気が出ているようだった。不機嫌の理由は、『俺は入っちゃダメなのにアイツは良いのか?』と言ったところか。
ただ、セリの説明が可愛いかったので、不機嫌を引っ込めて撫でている。
『もふもふは雄雌関係なく、オッケー。』そうセリからの説得が、再びロードへなされた。番<ツガイ>に甘い竜人だが、嫉妬も強い。そして話し合いで折れるのは、執着が強い方だろう。
「もふもふは、触るだけ。」
「毛玉なら、しょうがない。」
セリとロードの意見の衝突は、今のところ回避されている。基本的にロードに振り回される事になるセリだが、付き合い方を学んでいる最中だ。
“ずっと側に居たい”と望むロードと折り合いをつける必要が度々あるだろうな。
「夜は一緒なのにネ」
「頑張ってる方じゃないのー。」
シュルト(人族)とカナン(獣人)の見解の違いである。番<ツガイ>を求めて止まない相手へ、まだ理性的な対応ができている。
ロードは不満のようだが、“セリのため”で承諾させた。そしてセリの部屋にいる存在が何なのかの話に移る。
「結局、ナンなの妖精?」
「来る時にあったヤツであってる?」
「同じだろ」
シュルトの疑問にカナンが肯定しつつ、ロードに投げた。同じだと断定する。王都に来る前、カナンとロードも居た時にこのコに会っている。セリは、体調が悪いのかと心配して。水魔法で水をやっていた。
「“黒は不吉”は、人族で謂れはナイか?」
カナンがシュルトに問うが、シュルトもセリも知らない。
“堕ちたケモノ”の神話や物語りは、破壊や破滅に関わる不吉な話が多い。獣人の文化圏では有名な話も、人族ではピンとこないのだろう。
黒はそれだけで不吉とされる。だが例外もある筈だ。
「もしも精霊、だったなら?」
“精霊獣かも”だが、精霊は住処を持つ。もし、その縄張りに引き込むヤツなら、セリが取り込まれないように警戒が必要になる。
「精霊相手なら交渉できる、妖精は悪意なく連れ去ることもあるんデショ?」
子供は特に、妖精避けを持たせるなどする。無事に数日で帰ってくる事もあるのだが、取られたくない。そう意志を込めた腕に、セリが抱き締められた。
「ちょっと苦しい」
すぐにロードの腕が緩められ、聞かれる。
「セリの妖精への関わりは、どういう認識なんだ?」
セリが育った教会なら、悪意のある妖精は寄り付かないだろうが。セリは『北の砦』と呼ばれるところに居た期間もある。
「妖精の悪戯には遭っているようだったワネ。」
重ねて聞くのはシュルトだ。酒が減る、甘くなるなど“いつの間にかの変化”を『妖精の悪戯』と呼ぶことはある。
良い物になっていると歓迎される現象だが、好かれすぎて変化が激しい者は権力者に狙われやすい。今後、そういった守りが必要になるかもしれなかった。
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