第8話 変調

「駄目だ」


そう聞こえたのは、前で話していたカナンではなかった。横、後ろ?から。


「起きたか。」

カナンの視線は、セリの後ろへ向いている。セリは確信して挨拶をする。


「おはよ、ロード」


外は陽が沈んでいるが、起きたのでおはようと言っておく。セリと隙間なく密着しているので、顔は見えない。透き通るような翠色の髪だけが流れ落ちてきたのが、視界に入っただけ。


「んん〜」

すりすりとセリに甘え、むずがる声のロードを撫でる。教会にいた弟分を思い出す。歳上のロードに感じるには失礼かもしれないと思ったが、本人が甘受している。


「そんなキャラだったっけ〜?」

カナンが半分あきれて言うが、番<ツガイ>のいる獣人にはよく聞く状態だ。

十眠からロードが目覚めた。


「よし、寝る。」

「待て、セリちゃんを連れ込むなっ。」


自然な動きで、ロードがセリをベッドへ連れて行こうとした。セリは足がぶらんと宙に浮いていて驚き固まっている。カナンが即座に止め、ロードに文句を言っている。


「へくしゅんっ」


セリがくしゃみを一つした。2人がセリに向く。

「湯冷めした?」


カナンの言葉を聞いて瞬時にロードが、セリをさすって暖め始めた。それより何か着るものを持って来い、とやっていると…


「カナン、寝袋これだけどぉ…アラ、ロード起きたの。」


濡れ髪のシュルトが入ってきた。3人の状況を察し、とりあえずセリに重ね着させて話を聞く。



「全員で寝たい」

セリの意向はハッキリしている。2人の保護者は、簡易ベッドを2つ持ち込めば良いか。そう思って同意した。


セリとロードの2人きりにする選択肢は、ナイのだ。


カナンとシュルトがさっさと準備を始めた。寝酒にと酒とちょっとのオツマミ。ロードはベッドの天蓋を開け、セリは部屋からクッションを持ち込む。


一緒に寝るのが久々のようだが、すんなり元に戻った気持ちで寝床に一緒に入る。


「一緒のベットで良いのカシラ?」

「まあ、オレらも近くに居るしぃ」


対外的にはナシだと思うが、ロードが乗り気でセリが望んでいる。慣れない場所での一人寝は寂しかった様子だ。


「泣いたりしていないと思うケド、教会で一人部屋ってあまり聞かないワヨネ。」

「あ〜、子供でまとめて過ごすよねー。寝れてそうだったから、大丈夫かと思ったわ。」


馴染まない場所で、どう体調が崩れるか。慎重に見ていなきゃいけない時期だ。

「関係性はまだ始まったばかりと言っても、過言じゃないのヨ。」


最早、見慣れた2人の関係もまだ、探り探りだ。


「ロードに潰されないようにも、な」


そちらを向く。ロードが、ベッドの上で密着している。物理的に潰されないよう、クッションを壁にする位置どりを仕込みにシュルトが向かった。

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