第3話 十眠(とおみん)

「ま。ロードが起きてから動き出せば良いだろ。」


<十眠>というくらいだから、10日経てば動きがあるんじゃないかとされている。

カナンがロードの動きに気づいたら、教えてくれるそうだ。


落ち着いた日々にあって、セリは今までの過去を振り返っている。

(あの獣人の男の子は、冒険者になって家族に会いに行っただろうか?)


獣人の国に旅をしながら辿り着くと言っていたが、もう来ているか?セリの辿った道筋では判断がつかない。手持ち無沙汰ととったのか、シュルトが本を持ってきてくれた。


『王都の成り立ち』

『騎士物語』

それを読んでいると、2人の会話が聞こえた。


「ロードが気づいたら真っ先にセリの下へ行くんじゃない?」

「寝惚けて潰さないか心配だな。オレ、側にいる。」

「ソウシテ。」


セリの保護者を自負するシュルトと、ロードの抑え役であるカナン。2人は打ち合わせた。キッチンで本を読むセリ、その上に位置する部屋ではロードが眠っている。


『十眠』は魔力を使い過ぎた時に摂る、深い眠りの事だ。魔力量が多く急激な消費は心身に影響する。魔力の流れを整えるために10日間ほどぶっ続けで眠る。


10日間は目安であって、2・3日という事もある。大魔術と呼べる規模の魔法を、短期間に使ったのだから。ロードの今回の眠りは深い物になるんだろうか?


「平気そうだったけど、寝れる時に寝といた方が良いよねー。」


カナンの魔力量も多いが、違う魔力の使い方で<十眠>するほどではないらしい。


元々の言葉、『冬眠』は寒い時期に眠りにつく事から転じた言葉だが人族には馴染みがないだろう。残念ながら、竜人に捕まった番<ツガイ>が別離するという選択肢は存在しないのだ。


「獣人の『番<ツガイ>問題』って、トラブルが多いって聞くケド。」


人族の習慣や文化も違い、力任せなところもある獣人の特徴。シュルトは商売の関係で経験した事がある故の、戸惑いの記憶がある。


「オレらができるのは、フォローだけだもんね。」


セリがこの場から遠のけば、即座に起き出してくる事だろうロードを簡単に想像できた。


番<ツガイ>の執着が強い種族の1、2を争うのが竜人だ。もう一つは、狼獣人である。魔力の強さ故か、性<サガ>なのか。


人族が言うところの、“ひと目惚れ”。


『出会ったが最後、逃れることはできない。』とまで言われる。その対象であるセリの負担を少しでも軽くする事で、平穏な日常が続けられる。


“竜人の番<ツガイ>を害する者は消える”

天災級の破壊も過去、起きて畏怖を植え付けているそうだ。


『竜人を怒らせてはならない』


その地にあったとする国や街に、かつてあった事として怖れと共に刻まれているという話は点在しているらしい。そんな存在だとは実感のないセリだった。




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