第6話 美女の正体

驚きです。どうやらわたしは、見知らぬ異国にトリップしてしまったようです。

会社の非常階段から落ちたのが、今は西洋風のお城の一室にいました。


年配の執事が、給仕をしています。

花のように甘い香りが漂って、目の前に温かい紅茶のカップが置かれました。


「どうぞ、お飲みになって」


小鳥のような声が部屋に響きます。

森で出会った、白いドレスの金髪碧眼の美女。名前を、エリザベス・ローズといい、容姿も名前も、家柄も一流なのがみてとれます。


「頂きます……」


――ズ、ズ……。


カップの紅茶をひとくち。

香りだけじゃなく、味も素晴らしかった。

匂いは薔薇の花。味はスッキリしていて、ちょっぴり酸味が……。うん? あれれ??

舌がピリピリしだしました。

これは、おかしいぞ!?


――バタン!


わたしは、ティーカップを手にしたまま、椅子から崩れ落ちました。

頭の中をミキサーでぐちゃまぜにされたような感覚、口から泡のようなものが流れてきます。


これは、まさか……!?


「いきなり、ごめんなさい……。あなたの紅茶に毒を盛ってみましたの」


エリザベス嬢は、こともあろうにそんなことを仰いました。

美しい唇が妖しくつり上がります。


「ゲフ!……ごぼっ、ごぶ」


ど、どうして、毒なんて……??


わたしは、声にならない声を上げながら、エリザベスに目で訴えかけました。

初対面の人をお茶に招待しておきながら、その客人のお茶にさりげなく毒を盛る。

わたしが何をしたというのでしょう!


身に覚えがないのに、毒殺されるなんて、あんまりです!!


じわじわと内蔵が毒に犯されて、停止していくのがわかります。全身が熱くて熱くてたまりません。

わたしは、二度目の死を意識しました。

つい数時間前は、誰かに階段から突き落とされて。今度は、見ず知らずの金髪碧眼の美女に毒殺される。

踏んだり蹴ったり続きです。


毒のせいなのか、頭が働かなくなってきました。そろそろ終わりを迎えるかもしれません。

人生、やりたいこと、色々ありました。

やりたいこと……、やりたいこと……。

うんん? ないのか、特に。

悲しいかな、すぐにやりたいことが出てきません。

死ぬ時って、これでいいのでしょうか?

もっと、これがやりたかった! あってもいいでしょうに。


今度、生まれ変わったら、もう少し生に貪欲になりそうな、やりたいことを見つけたいところでございます。


……ガックリ。


そこで、わたしは意識を失いました。

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悪役ボスキャラに転生したので、悪役だけ集めました! 桐山りっぷ @Gyu-niko

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